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デジタルネイティブ世代の開発者は何を“黄金”に変えるのか。若手を起用した新ブランド「midas」の意図や狙いを藤田一巳氏に聞いた
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印刷2017/04/18 11:00

インタビュー

デジタルネイティブ世代の開発者は何を“黄金”に変えるのか。若手を起用した新ブランド「midas」の意図や狙いを藤田一巳氏に聞いた

画像集 No.001のサムネイル画像 / デジタルネイティブ世代の開発者は何を“黄金”に変えるのか。若手を起用した新ブランド「midas」の意図や狙いを藤田一巳氏に聞いた
 コーエーテクモゲームスは2017年4月1日,「シブサワ・コウ」「ω-Force」「Team NINJA」「ガスト」「ルビーパーティー」に次ぐ第6のブランド「midas(ミダス)」を設立した。本ブランドは,同社の20代,30代のスタッフが主力となってスマートフォンゲームの開発に注力し,ヒット作となる新規IPの創出を目指すという。
 今回4Gamerでは,midasのブランド長を務めるコーエーテクモゲームスの藤田一巳氏に,本ブランド設立の経緯やそこに込めた想い,そして今後の展望などを聞いた。


「若手の自由な発想とプロデュース力の融合」を掲げスマホ市場にあらためて注力


4Gamer:
 本日はよろしくお願いします。まずは新ブランドであるmidasを設立した経緯などを教えてください。

藤田一巳氏
画像集 No.002のサムネイル画像 / デジタルネイティブ世代の開発者は何を“黄金”に変えるのか。若手を起用した新ブランド「midas」の意図や狙いを藤田一巳氏に聞いた
藤田一巳氏(以下,藤田氏):
 順を追ってお話しすると,現在,各ゲームメーカーがスマホ向けにオリジナルタイトルでヒットを出していますよね。その中でコーエーテクモゲームスも,ソーシャルゲーム全盛期から皆さんに楽しんでいただいているタイトルをいくつか提供していますが,厳密に言うとスマホオリジナルのヒットタイトルは出せていません。

4Gamer:
 確かにコーエーテクモゲームスのスマホゲームというと,「信長の野望」や「無双」など既存IPに紐付いているものが多い印象です。

藤田氏:
 そうなんですよね。
 また現在,コーエーテクモグループのトップである襟川(コーエーテクモホールディングス 代表取締役社長 襟川陽一氏)は,「グローバル化」「スマホ」「若手の活躍」という3つの目標を掲げています。このうちグローバルに関しては,「仁王」が皆さんに評価していただいた結果,おかげさまでミリオンヒットを記録できました。
 そうなると,次は今まで以上にスマホに注力していきましょうと。おっしゃるとおり,これまでは既存IPのタイトルばかりでしたから,スマホ向けにオリジナルタイトルを作ろう,ひいてはそのために新ブランドを立ち上げようということになったんです。

4Gamer:
 midasの設立をアナウンスするリリースには“20代,30代の社員が主力”“若い力”といった文言が盛り込まれ,このブランドが若手中心であることをアピールしていますけれども。

藤田氏:
 そこには,コーエーテクモゲームス社内の若手を中心に新しいIPを生み出したい,将来のディレクターやプロデューサーを,今,積極的に育てたいという襟川の想いがあります。発表しているように,2019年度にはコーエーテクモゲームスの本社をみなとみらいに移す計画もありますし,ちょうどいいタイミングだろうと。
 今回,単に新規IPを生み出すことに留まらず,新たなブランドとしてmidasを立ち上げたのは,そうしたコーエーテクモゲームスの未来を見据えてのことです。たとえば「信長の野望」は来年で35周年,「無双」シリーズも20周年を迎えましたが,ブランドを作るということは,その先の未来を作るということにつながるわけです。

4Gamer:
 midasは10年後,20年後のコーエーテクモゲームスにおいて,一翼を担う存在を目指しているということですね。

藤田氏:
 はい。またブランドを起こすということは,アイデンティティを確立することに近い部分があります。将来に向けて新しいアイデンティティを作るのであれば,やはりデジタルネイティブ世代の20代から30代の若手が,ゲームメーカーの一員としてやってみたいことをスマホ向けに目一杯チャレンジしてみるのがふさわしいんじゃないかと。
 私も40代半ばとなりますが,そうなると20代30代とはゲーム全般に対する感覚が異なりますし,それが集合するとかなり違ったものになるだろうと考えています。たとえばソーシャルゲームが台頭してきたとき,私は携帯電話の“5”ボタンをポチポチ押しているだけというゲームが理解できませんでしたし,おそらく私と同じ世代の人もそうだったんじゃないでしょうか。

4Gamer:
 ああ,よく分かります。

藤田氏:
 その一方で,今の若手は,そのソーシャルゲームこそが最初のゲーム体験だったりするわけです。ところがその体験を活かしてコーエーテクモゲームスでゲームを作ろうとしても,若手に開発のノウハウや社会経験が少ないために,なかなか実現できないかもしれない。それを会社として解消しようと,若手中心で固めたのがmidasなんです。
 今回の取り組みには,「若手の自由な発想とプロデュース力の融合」というキャッチコピーを掲げているのですが,その背景には,コーエーテクモゲームスが若手を起用してスマートフォン市場に本気で勝負をかけるという,経営トップである襟川の将来に向けた強い意気込みがあるわけです。


必ずしもいいイメージばかりではない“midas”をブランド名に掲げた理由


4Gamer:
 それでは,midasというブランド名の由来についても,あらためて教えてください。

藤田氏:
 発表しているとおり,midasという名前は,ギリシャ神話に登場するMidas王が神から与えられた「触れるものすべてを黄金に変える力」を指す「Midas Touch」 に由来しています。
 実はMidas王にしろMidas Touchにしろ,一般的には必ずしもいいイメージではないので,社内では喧々諤々の議論となったんですよ。たとえばMidas王が出てくるエピソードは寓話「王様の耳はロバの耳」のモデルですし,またMidas Touchも触れたものすべてが黄金になるという一聴すると素晴らしい能力ですが,実際には触ったワインや愛娘まで黄金となり,王自身は後悔してしまいますから。

4Gamer:
 そんな議論のタネになるような名前に決定した理由は何でしょう。

藤田氏:
 いくつか提出した候補の中から最終的にmidasを選んだのは,トップの襟川なんです。
 私がmidasを候補に挙げたのは,Midas王の有名なエピソードのあとの話に着目したからなんですよ。後悔して神に許しを請いにいったMidas王は,川で身を清めるよう指示されました。そして王自身は身を清めることにより能力を失うのですが,それと同時にその川が砂金を産むようになり,そののち周辺の地域が繁栄したんです。このエピソードから,私はmidasという名前に「スマホで我々のゲームに触ったお客さんのライフスタイルが豊かになるように」という想いを込めたんです。
 またライフスタイルという意味では,今やスマホは多くの人の生活に密着した存在となっています。そのため提供するゲームは,単なる時間つぶしのようなものではなく,皆さんが夢中になれるもの,つまりライフスタイルを豊かにするものとしてお届けしたいと考えています。
 さらに裏テーマとして,「運よく成功できたとしても,天狗にならないように」という戒めも込めています。Midas王のように「万能の力を持った」と勘違いしてしまっては破滅に向かうだけですからね。とくにこのブランドは社内で話題となっており,初期メンバーとしてアサインされた若手スタッフには,いい意味でも悪い意味でも注目が集まっています。そこでmidasという名前に込められた意味をしっかり踏まえて,この先ことあるごとに思い返し,精進していってほしいという気持ちがあります。

4Gamer:
 Midas王やMidas Touchと聞いて一般的に思い浮かべるイメージだけでなく,いろんな意味が込められているわけですか。

藤田氏:
 ええ。ご批判を受けることを理解した上でのmidasという名前なんです。そんな話を襟川と社長である鯉沼(コーエーテクモゲームス 代表取締役社長 鯉沼久史氏)の二人にしたところ,そういうことならこれで行こうということになったんですよ。
 すると今度は,会長の襟川(コーエーテクモホールディングス 代表取締役会長 襟川恵子氏)が,「私がブランドロゴを描く」と言ってくれまして。

4Gamer:
 そんなエピソードが。

藤田氏:
 新しいブランドということで,社内のデザイナー陣からいろいろ候補が挙っていたのですが,会長の襟川が描いたものがダントツによかったんですよね。このロゴの“M”の上には,金色でシュッとなった部分がありますけれども,これはお客さんが画面をスワイプし,黄金を産み出したことを示しているんです。このアイデアは会長,社長の二人で話し合う中で出てきたものなんですよ。

画像集 No.003のサムネイル画像 / デジタルネイティブ世代の開発者は何を“黄金”に変えるのか。若手を起用した新ブランド「midas」の意図や狙いを藤田一巳氏に聞いた

4Gamer:
 なるほど,元ネタとなる神話の内容も汲んだデザインになっているんですね。

藤田氏:
 会長の襟川は,ほかのコーエーテクモゲームスのゲームやブランドのロゴデザインにも携わるのですが,midasのロゴに関しては鉛筆描きのラフから手がけているんですよ。「藤田,どういうことを表現したいの? どこに重きを置くの?」と,何パターンも描いていましたね。
 あとは多くの方から指摘されるのですが,こうしたロゴで正方形のデザインはあまりないんですよ。だから私はすごく気に入っています。

4Gamer:
 実際,midasというブランド名に対する反響はいかがですか。

藤田氏:
 発表したときはご批判が集まるんじゃないかとドキドキしたいたのですが,今は結構ご理解いただけているかな,というところです。
 やはりスマホゲームというと,どうしても課金まわりが問題視されがちですので,我々だけが儲かるようなことを目指すと,Midas王のように我々自身が身動き取れなくなってしまいますから,そこは気をつけないといけませんね。


プロダクトアウトではなく,マーケットインの考え方でゲーム開発を進めていく


4Gamer:
 midasでは,どのようなゲームを提供していくのでしょうか。

藤田氏:
 midasでゲームを企画開発するにあたっては,大きく3つの約束があります。まず一つは,お話ししてきたように若手を起用すること。次にコーエーテクモゲームスの既存IPを使わないこと。
 そして最後は,スマホ端末がスペックも含めてゲームプラットフォームとして無視できなくなってきた昨今,我々がこれまでゲームメーカーとして培ってきたノウハウと,若手のアイデアを上手く融合させて,新しい遊びを創り出すことです。この議論はここ数年,社内でずっとなされてきており,今回「よし,このタイミングでやろう」と実現したんですよ。

4Gamer:
 現在,開発に着手しているタイトルは何本くらいありますか。

藤田氏:
 詳細はお話しできないんですが,現在複数のアイデアを企画に落とし込んでいる段階です。
 実はスマホ専業でゲームを作っておられる方々や,スマホゲームのヒット作を持つゲームメーカーの方々とお話をする中で,我々も考えをあらためなければならないと思ったことが一つあるんです。それは,スマホゲームとは基本的にマーケティングありきのものだということです。たとえば,どういう座組みにするか,どうやってバズ効果をもたらすか,ということを前提にプロジェクトを展開していきますよね。
 その一方でコーエーテクモゲームスは,いい意味でも悪い意味でもプロダクトアウトでやってきた会社です。

4Gamer:
 確かに,これまでのコーエーテクモゲームスは「先にゲームありき」という印象が強かったですね。

藤田氏:
 そうなんです。ゲームをしっかり作ったうえで,どうやってプロモーションをするか,どんなタイアップを展開するかという考え方でやってきました。
 しかしmidasのタイトルに関しては,最初からマーケティング部門に参画してもらい,市場でお客さんがほしがったり,話題にしたりするような題材を決めてから開発を始めようと考えています。ですから今は,若手から上がってきたアイデアについて,私やマーケティング部門が「どれをどこにどう落とし込めば,もっとも高い効果が得られるか」と検討している段階なんです。
 またmidasを発表して以降,いろんな方にお声をかけていただいており,今はちょうど皆さんからお話を伺ったり,ご相談させていただいたりしています。

4Gamer:
 これまでのコーエーテクモゲームスのゲーム作りとは異なるところがあると。

藤田氏:
 そのとおりです。我々はこれまで,PCゲームとコンシューマゲームの作り方でソーシャルゲームとブラウザゲームを手がけてきました。しかしスマホゲームに取り組んだとき,アプローチを変えたほうがいいのではないかと感じたんです。

4Gamer:
 ただ藤田さんご自身は,ポータルサイトの「my GAMECITY」を手がけるなど,これまでにも単なるゲーム開発に留まらない取り組みにも積極的に関わってきましたよね。

藤田氏:
 ええ。社内で直接言われたわけではないのですけれど,今回,私がmidasのブランド長に選ばれた理由は,ある意味,マーケット志向が強いからじゃないかと分析しています。実際,midasの初期メンバーにアサインされたプロデューサークラスの人材も,そういった傾向がありますし。
 実際,私自身は昔からゲーム開発だけに携わっていたわけではなく,古くは「モンスターファーム」のビジネスプロデュースや,フジテレビのiモード向けゲームに関わってきました。それはつまり,市場とのコンセンサスを取りつつ,お客さんをより楽しませるために,ゲームではない部分に至るまでゲーム開発の理屈を入れ込んできたということです。おそらくmidasには,そういった考え方が必要だということではないでしょうか。

4Gamer:
 なるほど。それではmidasで提供するジャンルはどうなるのでしょう。ブランドとして,特定のジャンルに特化したりはするのでしょうか。

藤田氏:
 企画開発の現場では,アクションゲームを作りたい,RPGを作りたいという話が当然出ているのですが,実はその前段階として「皆さんがどのようにスマホに触れているのか」という研究をしているんですよね。最近受け入れられているゲームにはどういう傾向があるのか。「縦持ちがいいのか横持ちがいいのか」「横持ちであれば多くの人がどこに指を置いているのか」「イヤフォンで音楽やボイスを聴いているのか」「操作はタッチがいいのかスワイプがいいのか」といったように,お客さんがもっとスマホでゲームを遊びたくなるようにするにはどうすればいいのかといったことを,常に考えています。
 また,たとえば私自身には,チュートリアルが複雑でコアなゲーマーには喜ばれるけれども,それ以外の層に受け入れられないようなゲームはどうなんだろうという疑問があります。その反面,誰でも手軽に遊べるものがライトゲーマーにしか刺さらないかというと,そんなことはない。

画像集 No.006のサムネイル画像 / デジタルネイティブ世代の開発者は何を“黄金”に変えるのか。若手を起用した新ブランド「midas」の意図や狙いを藤田一巳氏に聞いた

4Gamer:
 確かにヒットタイトルの中には,入り口はシンプルだけれども,奥深いプレイができるものがあります。

藤田氏:
 そういったゲームをどうやって実現するかというと,マーケットとコンセンサスを図ることと,皆さんがスマホという端末をどのように扱っているかということ,そしてゲームメーカーとしてゲームを作る上で守らなければならないことの3つを融合しなければなりません。
 また,そもそもスマホはゲーム機のコントローラと違い,決まったキーアサインがありません。そうなると,「スマホをこう使って遊んでみたらどうだろう」という発想が生まれる余地が出てきます。たとえば「Pokémon GO」は,そういった発想から生まれていると思うんですよ。

4Gamer:
 そうはいっても,midasでARゲームにチャレンジするということではありませんよね。

藤田氏:
 ええ,そういった感じで,スマホで遊ぶゲームの可能性を探っているという意味です。またスマホゲームは据え置き機用のコンシューマゲームと違い,大型のテレビやディスプレイを必要としません。寝っ転がって遊ぶ人もいれば,お風呂に入りながら遊ぶ人もいます。その中で,繰り返しですが,どうすればより長くゲームを楽しんでもらえるか。今までのコーエーテクモゲームスなら「ゲームとして面白いもの」をプロダクトアウトで提供してきましたが,そこにマーケットと「スマホとして」という部分を足してゲーム作りをしていくのが,midasというブランドなんです。

4Gamer:
 ザックリとした聞き方になって恐縮ですが,面白いゲームが生まれそうという手応えはありますか。

藤田氏:
 それはもちろんです。同時に,その手応えを過信してはいけないとも思いますね。というのも若手からポッと出たアイデアは,まだまだゲームにはならないものが多いんですよ。
 ただ逆も真なりといいますか,カチッとして小さくまとまっている企画よりも,いいアイデアがあるのは事実です。一つ一つのアイデアだけでゲームを仕上げられるかというと難しいのですが,このスタッフの発想と,別のスタッフのロジックを組み合わせると新しいものが生まれるんじゃないか,という部分が見受けられますので,できるだけ早く形にして「midasのゲームとはこういうものです」ということを皆さんにお伝えしたいですね。


デジタルネイティブ世代の“当たり前”を踏まえてスマホゲームを考え直す


4Gamer:
 若手スタッフのアイデアは,彼ら自身が一から考えたものなのでしょうか。それとも彼らが好きなゲームや,ほかのエンターテイメントなどの影響を受けたものなのでしょうか。

藤田氏:
 どちらもあります。やはりゲームメーカーに入ってくる人というのは,「自分が影響を受けたから,こういうものを作りたい」という想いを抱いているケースが多いんですよ。それはコーエーテクモゲームスも例外ではありません。その一方で「自分が考えた企画を実現したい」というスタッフもいます。
 ただお話ししてきたとおり,midasではプロダクトアウトではなく,市場が求めるものを提供するマーケットインの考え方でゲームを作っていきますから,「影響を受けたから」「ずっと考えてきた企画だから」という自分の軸だけでは形にできないかもしれないということは,よくいっています。

4Gamer:
 自分が作りたいものが,必ずしも市場やプレイヤーが求めるものと同じとは限りませんからね。

藤田氏:
 そうなんです。ですから,もっと自分自身のインプットを増やして,お客さんが求めているものと自分が考えていることのコンセンサスポイントを探り出し,「ここに自分の立ち位置を置きます」ということをハッキリさせましょうと。そうしないと自分がブレたときに,軸がなくなって何を作ればいいのか迷走してしまうんですよ。とくに若いうちはアレもやりたい,コレもやりたいと作り直しをしたくなりがちですから。
 これまでのコーエーテクモゲームスであれば,「信長の野望」や「三國志」といったIPそのものが軸になり得ました。ただ,その軸があまりにも巨大になってしまったがために,なかなか若手が新しい軸を見出しにくくなっています。そこでmidasでは,若手にいろいろ意見や考えていることを出してもらい,どこに軸を置くかについて,私が相談相手になっています。
 まあ,どうしても最初は「あのゲームが面白かったから,ああいうものを作りたい」となりがちですね。それはそれで否定しませんし,まったく構わないのですが,もう一度「マーケット的にどうなのか」「ライフスタイル的にどうなのか」というところを考えてみよう,と話しています。中には,指摘する前に「こういう座組みで作ると,この層の人達が喜ぶ」みたいなことを書き添えてくる若手もいますよ。

4Gamer:
 頼もしい話ですね。
 ちなみに,若手のアイデアに共通する傾向などはありますか。

藤田氏:
 たとえば,スマホを横持ちするゲームのアイデアが多いですね。というのは,RPGを作りたいというスタッフが多いんですよ。横のほうが表現力を高めやすいですし,また頭の中に16:9の画面比が固定観念としてあるんでしょうね。敢えて縦でやればいいのに,と思うことがあります。

4Gamer:
 少し前は通勤通学の電車内で片手プレイができるから縦持ちがいい,みたいなことが言われていましたけれども,最近では普通に横持ちのゲームもヒットしていますよね。

藤田氏:
 その状況に関しては,私は少し懐疑的なんですよ。というのも,電子書籍は普通の書籍と同じく縦読みですよね。またスマホ用のコミックには,縦スクロールできるようコマを割り直しているものもあります。さらにWebサイトも,以前はファーストビューにどれだけ情報を詰め込めるかがポイントと言われていましたが,弊社で行ったユーザーテストによると,今は結構下のほうまでスクロールしてチェックしている人が増えているという結果が出ています。
 実は,多くの人に受け入れられるゲームのヒントは,そういうところにあるんじゃないかと考えているんですよね。それは縦横に限ったことではなく,能動的なものがいいのか,受動的なものがいいのかなど,いろいろなところで考えてみる必要があるでしょう。たとえばプレイ時間もそうです。よく駅から駅までの1区間にあたる3〜5分程度で区切りをつけるといいと言われていますが,そこももう1回考え直したほうがいいのかもしれません。
 そういったことを若手と話してみて,彼らが何を考え,どんなアイデアを出してくるのか。そうやって若手の発想を引き出すのが,私の役目だとも考えています。もっとも彼らと私とは全然感覚が違いますから,彼らのほうから勝手にいってくるかもしれませんが(笑)。

4Gamer:
 藤田さんご自身と若手スタッフの間に,おっしゃるような世代的なギャップを感じる瞬間はありますか。

藤田氏:
 当然あります。スマホを扱うブランド長のいうことではありませんが,実は私,フリック入力ができないんです。もう本当に,彼らとはスマホの触り方からして違うんですよ。もはやキーボードのブラインドタッチと同じように,若い人達はフリック入力が当たり前ですからね。私もきちんとできるように練習しないと(笑)。

4Gamer:
 似たような話ですが,昔ながらのゲーマーだとスマホゲームで画面をタッチしたりスワイプしたりするときに自分の指が邪魔だと思うことがありますけれども,スマホゲームが当たり前の若い人はそんなこと考えもしないんですよね。

画像集 No.007のサムネイル画像 / デジタルネイティブ世代の開発者は何を“黄金”に変えるのか。若手を起用した新ブランド「midas」の意図や狙いを藤田一巳氏に聞いた
藤田氏:
 そうなんですよね……。
 その意味では,私自身は最近,スマホのアクションゲームを遊ぶようにしているんですよ。これはmidasがアクションを作るという意味ではなく,スマホの触り方やキーアサインを研究するためなのですが,正直どれも決定打に欠けるんです。皆さんが「これだ!」と思うようなインタフェースを作るには,コロプラさんが「ぷにコン」を出したときのようにイノベーションのジレンマを乗り越える必要があるんでしょうね。
 1000万ダウンロードを超えるようなタイトルが出てくる中,面白いゲームを作るのは当たり前で,その上で注目を集めなければなりません。それは広告をたくさん打てばいいというものでもありませんから,midasとしてゲームを出すからには,イノベーションのジレンマを乗り越えたものにしたいですね。

4Gamer:
 実際のところ,コーエーテクモゲームスには,スマホゲームを作りたいという若手は多いのでしょうか。

藤田氏:
 多いですよ。たとえば次々に新しいタイトルを出して話題になっている大手スマホ専業メーカーも多いですよね。それを見ているとゲームメーカーとして,やはりくやしいですし,当然「スマホで一発当てたい」という若手スタッフもたくさんいます。
 私自身の意気込みとしては,midasとしていいゲームを出したいですけれども,もう「オレがオレが」ではなく,若手が大きな道の中で暴れているのを後ろから見守りつつ,道の外に出そうになったときにそっと支えるような感じでいきたいですね。

4Gamer:
 分かりました。ただ,これだけスマホゲームが世に溢れていると,これから新しい何かを生み出すのはなかなか難しいんじゃないかと思うのですが。

藤田氏:
 私自身としては,むしろこれからだと考えています。スマホのスペックが上がってリッチなゲームを作れるようになった今こそが,これまでゲームメーカーとしてやってきたコーエーテクモゲームスの腕の見せどころだと思うんですよ。「どう遊んでいただくか」ということを考えられるタイミングがようやく来たので,ここが勝負だと。
 これも繰り返しですが,とくにキーアサインなどのコンフィグが定まっていない状態は面白いですよね。ひょっとしたら,今後のスタンダードとなるものが生まれるかもしれませんから。

4Gamer:
 それでは藤田さんは,midasの若手スタッフにどのように育ってほしいと考えていますか。

藤田氏:
 midasだけでなく若手社員には,将来のコーエーテクモゲームスを担うプロデューサーやディレクターに育ってほしいですね。midasが標榜するマーケットインのゲーム作りは,一人でコツコツやっていればいいというものではなく,外部のいろんな方と会ってコミュニケーションを図ったり,交渉したりしながら進めていくものです。そしてそれは,プロデュースという仕事も同じです。「自分がこう思うから」という意見を主張するだけではなく,その意見をきちんと聞いてもらうために,周囲とコミュニケーションを取る必要があるんです。
 とくにコーエーテクモゲームスはゲームメーカーとして長い歴史があり,今や“老舗”とおっしゃってくださる方もいます。そのゲーム開発の伝統をしっかり守ったプロデューサーやディレクターは社内に絶対必要ではありますが,その一方ではいろんな経験を積んだ,いわばビジネス型のプロデューサーも育てていかなければなりません。これから5年後,10年後にその2タイプのプロデューサーがそろったとき,もっとコーエーテクモゲームスのゲームはバリエーション豊かになるでしょう。


記念すべきmidasの1タイトルめは2017年度中のリリースを目指す


4Gamer:
 それでは,midasの記念すべき1タイトルめのリリース時期や,年間のリリース本数の目標などを教えてもらえますか。

藤田氏:
 実はブランドの規模やタイトル数などは公開していないんです。
 ただやはり,midasが立ち上がった今期中に1本はリリースしたいですね。そのためには,今後数か月前後で何かしらの情報を公開できるところまで持っていく必要があるでしょう。

4Gamer:
 ビジネスモデルはどうでしょう。

藤田氏:
 基本はFree-to-Playです。

4Gamer:
 各タイトルの開発は,コーエーテクモゲームスの内製ですか。

藤田氏:
 基本的には内製です。ただマーケティング面やデザインなどで他社さんとご一緒することは否定していません。

4Gamer:
 藤田さんが手がけた「モバノブ」のように,他社と協業した開発はやらないのでしょうか。

藤田氏:
 こちらも可能性は否定しません。実際,そういったご提案もいただいているんですよ。
 でもやっぱり,midasの1作めだけは「コーエーテクモゲームスの若手が集まってこういうゲームを作った」という部分を大事にしたいですね。
 また「モバノブ」のときは,「信長の野望」を他社と協業でやるという「こんなことができたら面白い」というアイデアを企画にして社長の襟川に見せたら通ってしまった,という経緯があるんですよ。それをmidasでは,若手にやってほしいという想いがあるんですよね。彼らは「こんな形でやったら,もっと多くの人に見てもらえる」というものをたくさん持っているはずなんです。それを私のつたない人脈や,コーエーテクモゲームスのいろんなお付き合いの範囲でどんどん広げていきたいんですよね。
 その意味では,「midasと一緒に何かやりたい」という方には,ぜひお目にかかりたいです。

4Gamer:
 確認ですが,既存IPのスマホゲームは,これまでどおり社内のほかのブランドからリリースされるんですよね。

藤田氏:
 そのとおりです。たとえば「信長の野望」や「三國志」のIPを使ったスマホゲームはシブサワ・コウ ブランドですし,「無双」ならω-Force(オメガフォース)となります。

4Gamer:
 それでは最後に,midasの今後の展開に注目している人に向けてメッセージをお願いします。

画像集 No.005のサムネイル画像 / デジタルネイティブ世代の開発者は何を“黄金”に変えるのか。若手を起用した新ブランド「midas」の意図や狙いを藤田一巳氏に聞いた
藤田氏:
 少し遅くなってしまいましたが,midasでは,コーエーテクモゲームスが本気でスマートフォンに取り組みます。このブランドでは,ネーミングやロゴに込めた気持ちと同じく,我々だけがハッピーになるのではなく,皆さんから「このゲーム,面白いね」と思っていただけるゲームを提供していきます。たとえば満員電車の中で何となくテンションが上がらないときに夢中になって遊んでしまう,あるいは夜に疲れて帰宅したとき夢中になれるといったように,「時を忘れて遊ぶ」ことはゲームにとって重要な要素です。そうしたゲームをきちんと世の中に届けられるよう,今,コーエーテクモゲームスの若手と一緒に頑張っていますので,ぜひ期待してください。

4Gamer:
 続報に期待しています。本日はありがとうございました。


──2017年4月7日収録

コーエーテクモゲームス公式サイト

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