インタビュー
カリブ海のバハマで開催された「Hearthstone」の国際大会“HCT冬季選手権”の舞台裏をBlizzardのキーマン2人に聞いてきた
イベントの模様は「こちら」の記事などでお伝えしているが,世界有数のリゾート地での開催ということで,出場選手を含む参加者らはバカンス気分も交えつつ,たっぷりイベントを満喫していたようだ。
本大会の会期中,Hearthstoneの運営チームでe-Sports関連のプロジェクトを担当するMatt Wyble氏と,開発チームでバランス調整を手がけるDean Ayala氏の2名に,直接話を聞く機会が得られた。本稿では2人分のインタビューを合わせて紹介しよう。
「Hearthstone」の国際大会“HCT冬季選手権”がカリブ海のバハマで開催。リゾート地で繰り広げられたトッププレイヤー達の戦いをレポート
日本での大型大会「Hearthstone Championship Tour Japan Major」が開催決定!
Hearthstoneをe-Sportsとして盛り上げるための試みとは
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。現在,Hearthstoneでどういったお仕事をされているのでしょうか。
Hearthstoneをe-Sportsとして盛り上げるための,さまざまなプロジェクトを取り仕切っています。今回のHCT冬季選手権も,その内のひとつですね。
4Gamer:
本大会は終盤に差し掛かっていますが,手応えはいかがですか。
Wyble氏:
どの試合もアツい展開で,ライブ配信も大きく盛り上がっています。また,試合以外ではファンが選手やスタッフたちと交流をしたり,バカンスを楽しんだりと,期待していた以上の手応えですね。
4Gamer:
それにしても,どうしてカリブ海でオフラインイベントを行うことにしたのでしょうか。このようなイベント,自分は今まで聞いたこともないです。
Wyble氏:
まさに,そう思ってもらうことが最大の狙いです(笑)。
今回のイベントを企画するにあたり,「今まで誰も行わなかったことはなんだろう?」と考えて,「……そうだ! カリブ海のど真ん中でイベントを行ったら凄いことになるんじゃないか?」と思いついたんです。
4Gamer:
自分は最初にカリブ海と聞いたとき,「カリブの海賊」を連想して,現在人気が高い“海賊系”のカードやデッキにあやかったのかな? なんて思ったのですが。
Wyble氏:
今回のイベントは準備期間に約6か月を要しています。ですので,さすがに当時は,そこまで深くは考えていなかったですね……あ,そうだ! 「大魔境ウンゴロ」のイベントをジャングルで開催するために,今から準備しないと(笑)。
4Gamer:
そのときは是非,取材をさせて下さい(笑)。
それはさておき,今回の大会におけるコンセプトやテーマなども教えてください。
Wyble氏:
大きく分けて2つあります。去年はスタジアムなどで大規模な大会を開催しましたが,それに対し今年は,選手と観客の距離を近づけることをメインテーマに掲げています。
そしてもうひとつのテーマは,1回限りの世界大会だけでなく,1年を通してさまざまな場所でトッププレイヤーが戦い,最終的に「世界選手権」で頂点を決するというワールドツアー形式での開催です。
4Gamer:
ワールドツアーの第1弾が,今回の冬季選手権なんですよね。イベントを開催するにあたり,どういった部分に苦労されていますか。
Wyble氏:
一番気をつかっているのは,限られたスケジュールの中で,参加選手が力を出し切ることができ,それでいてフェアな試合環境を用意することです。
また,トッププレイヤーならではのテクニックが応酬し,その一方でまさかのミスをすることもありますが,それらを正確に伝える優秀な実況解説者も必要です。イベントの魅力を広く伝えるためには,インフルエンサーの協力も要るでしょう。
現在,Hearthstoneのe-Sports関連部署で約10名のスタッフが専属で働いているのですが,やるべきことはまだまだ沢山あります。
4Gamer:
Hearthstoneは,Blizzardのほかのタイトルと比べても,e-Sportsとしての展開にとても力を入れていますよね。なにか特別な思惑などはあるのでしょうか。
Wyble氏:
Blizzardではゲームごとに担当者やポリシーが異なるので,自分はHearthstoneのことしか話せませんが,Hearthstoneでは,できるだけ多くのプレイヤーがイベントに参加できるための環境作りを心がけています。やっぱりイベントに参加することで,Hearthstoneは何倍も面白くなりますからね。
4Gamer:
なるほど。
Wyble氏:
そうやって多くの人に参加してもらうためには,コアからカジュアルまで,さまざまなプレイヤーが参加できるイベントを世界各地で開催する必要があります。
たとえばこのインタビューを実施している今も,地球の裏側にある日本では,オフラインイベントの「桜前線 炉端の集い in 東京」が開催されています。
4Gamer:
日本を舞台にした大型大会「Hearthstone Championship Tour Japan Major」も,先日発表されましたね(関連記事)。どういった経緯で開催に至ったのでしょうか。
Wyble氏:
少し長くなるのですが,個人的な思いもあるので話させてください。
最初にHearthstoneが英語版でローンチされたときは,日本語にローカライズされていなかったのですが,それにもかかわらず日本人のプレイヤーがとても多かったのです。当時から熱心にプレイしてくれた人達が,日本のコミュニティを牽引してくれたこともよく知っており,そのお陰で,後にローカライズ版を実装したときに非常に好調なスタートを切ることができました。
今回のHCT冬季選手権には,日本からb787選手が出場されていますが,そのバックボーンには,mattun選手やKno選手たちの活躍があったと思うんですよ。
4Gamer:
日本のプレイヤーのこともよくご存じなんですね。
Wyble氏:
彼らの情熱を目の当たりにして,いつか恩返しをしたいとずっと考えていました。日本でHearthstoneの大型大会を開催することも,かなり前から計画していたのですが,ようやく詳細を発表できて,個人的にもとても嬉しいです。
そういったこともあり「Hearthstone Championship Tour Japan Major」は,日本のトッププレイヤーを称えるとともに,彼らやファンを交えての“Celebrate”(お祭り,祝賀会)にしたいんですよ。
4Gamer:
英語版の頃からプレイしている人たちが聞いたら,きっと喜ぶでしょうね。
そろそろお時間のようなので,Hearthstoneのプレイヤーに向けて最後にメッセージをお願いします。
Wyble氏:
日本におけるトッププレイヤーの知識やテクニック,そして情熱は,ワールドワイドで見てもトップレベルだと思います。後は,大舞台で戦う経験を重ねさえすれば,いつ世界チャンピオンが誕生してもおかしくないでしょう。そういった意味においても,今回の「Hearthstone Championship Tour Japan Major」が役立ってくれるといいなと思います。
また,これからも,もっと凄い選手が日本から誕生してくれると信じています。いま活躍している選手だけでなく,これから表れるであろう選手も同様に応援していきたいですね。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
全世界で5000万人ものプレイヤーを許容するゲームバランスを実現
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
最近はディレクターのBen Brodeさんと共に,ライブ配信などで表にも登場していますよね。
Dean Ayala氏(以下,Ayala氏)
4Gamer:
Hearthstoneの展開を見ていると,拡張パックがリリースされるペースがとても速く,また新たなシステムが次から次へと登場することに驚かされます。アイデアは尽きないのでしょうか。
Ayala氏:
拡張パックのベースとなるWarcraftの世界観に関しては,それこそRTSの初代「Warcraft」の頃から,膨大な量のストックがあります。またデジタルTCGとしてのメカニクスのアイデアも,山のようにあります。今後数年程度でアイデアが枯渇することはないでしょうね(笑)。
4Gamer:
デジタルTCGにおけるライバル作品も多い中,新たなアイデアを生み出すのは大変だと思います。たとえば,優れたメカニクスのアイデアが閃いたときは,それに合わせる形で拡張パックの舞台を選んだりしているのでしょうか。
Ayala氏:
どちらかというと逆ですね。次期拡張パックの「大魔境ウンゴロ」を例に挙げると,この地には恐竜やエレメンタル,未知のエネルギーや,隠された財宝などが秘められています。それらを具現化するためのカードやメカニクスを試行錯誤しながら生み出していきます。
たとえば,冒険の末にとてつもないお宝を手に入れるイメージから“クエスト”のシステムが生まれた,といった感じです。
つまり,たとえ優れたメカニクスを思いついても,それが世界観にマッチしなければ実装を見送っています。魅力的なアイデアも多いので,いつか形にできたらいいですね。
4Gamer:
デジタルTCGのゲームジャンルはライバルが多いですが,そのことが開発やバランス調整などに影響を及ぼすことはありますか?
Ayala氏:
とくにないですね。大切なのは,Hearthstone自身にとって何がベストなのかであって,他のゲームは関係ないですから。
それに,デジタルTCGのタイトルが増えるということは,このゲームジャンルの総人口が増えるわけで,そういった意味でHearthstoneにとってむしろプラスだと考えています。
4Gamer:
普段手がけられているゲームバランス調整のお仕事では,どういった部分に苦労していますか。
Ayala氏:
もっとも苦労しているのは,新規プレイヤーとベテランとの間で,バランスをどのように保つかですね。個人的には,ついついベテラン向けに複雑なメカニクスを盛り込みたくなるのですが,それだと新規プレイヤーにはハードルを感じさせてしまいます。かといって,新規プレイヤーが遊びやすいように調整しすぎると,ベテランにとって物足りなくなってしまうでしょう。
4Gamer:
なにしろ5000万人ですからね……。
Hearthstoneは,PCとスマートフォンの両方のプラットフォームに対応しています。両者ではプレイスタイルなどが大きく異なりますが,その舵取りはどのようにされていますか。
Ayala氏:
一般的に,スマートフォンではプレイ時間が短い方が好まれますが,PCでは長時間でも大きな支障がでにくいです。どちらのプレイスタイルでも同じように楽しめるようにするのは想像以上に難しいですね。
4Gamer:
ガジェッツァンの登場後,海賊によるアグロ系のデッキが増えた印象ですが,それはスマートフォンでのプレイ人口の拡大を促進する狙いがあったのでしょうか。
Ayala氏:
いえ,そこまでは考えていませんでした。
アグロが好きな人もいれば,ミッドレンジやコントロールが好きな人もいるわけで,そういったプレイスタイルをBlizzardが強要することはないです。プレイヤーの好みによって,どれも選べるようにするのが理想ですね。
ただ,結果としてガジェッツァンでは海賊系のアグロにトレンドがやや偏ってしまいました。そこで「ちんけなバッカニーア」の弱体化や,メタカードの追加などを行っています。
4Gamer:
さすがに,これほどのボリュームの拡張パックとなると,実装後のトレンドを予測しきるのは難しいでしょうか。
Ayala氏:
そうですね。
あとは,国によってもニーズが大きく違うんです。日本のコミュニティで求められるコンテンツが,他の国で受け入れられるかというと,そうとは限らない。Hearthstoneのゲームバランスはワールドワイドで統一しているので,その舵取りは本当に難しいです。
4Gamer:
ゲームバランスとは少し話が逸れてしまうのですが,日本ではWarcraftのIPがそれほどメジャーではありません。この点が改善されると,シナジーによってHearthstoneがさらに盛り上がるのでは……と期待しているのですが。
Ayala氏:
ウンゴロ以降は,アドベンチャーモードを通じて,Warcraftの世界を楽しむための仕組みを考えているので,ぜひ期待してください。
4Gamer:
それでは最後に,ゲームバランスの調整作業におけるポリシーがあれば教えてください。
Ayala氏:
いくつかありますが,プレイヤーが自分で考える余地を残すことが大切だと考えています。たとえば強力すぎるデッキがあったとして,それに対して開発側が安易なバランス調整を行うのではなく,プレイヤーが自分のカードコレクションを見ながら模索することで,攻略の糸口が見つけられる環境が理想ですね。やっぱり,人からデッキを教えてもらうよりも,自分考える方が断然楽しいですからね。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
「Hearthstone: Heroes of Warcraft」公式サイト
「Hearthstone: Heroes of Warcraft」ダウンロードページ
「Hearthstone: Heroes of Warcraft」ダウンロードページ
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(C)2017 BLIZZARD ENTERTAINMENT, INC.
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