創価大学で56イニング無失点を記録するなど、輝かしい経歴を引っ提げてソフトバンク入りした田中。目標とする日本ハム・大谷のような球界の顔になれるか

プロ野球が開幕する前から、大物ルーキーのアラ探しが始まっている。

昨秋のドラフト会議で5球団から1位指名を受けたソフトバンクの田中正義(せいぎ・22歳)。大谷翔平(日本ハム)と同い年で、捕手を吹き飛ばすような最速156キロの剛球を投げ込む逸材右腕だ。だが、春季キャンプでは、「制球難」「速球と変化球で腕の振りが違う」「フィールディングが悪い」など、“課題”ばかりが連日のように報道された。

大卒のドラフト1位ともなれば、ただでさえ即戦力として期待されるもの。まして、鳴り物入りでプロ入りした田中ともなれば、現状を不安視する声が多くなるのも当然だ。しかし当の本人は、昨秋の時点で「(一軍で活躍できるのは)再来年になるかもしれません」と口にしていた。

田中は、自身がプロ1年目から活躍することは難しいと自己評価していた。事実、キャンプで噴出した課題を、田中はすべてプロ入り前から自覚し、「今のままでは通用しないことはわかりきっている」とまで断言していた。

田中正義という選手は、他者から下される評価に興味がない。大学3年時に「12球団が田中を1位指名する可能性がある」と報道されても、大学4年時に右肩痛でマウンドに立てなくても、田中は一喜一憂する姿を見せなかった。なぜ、周囲の喧騒(けんそう)に動じずにいられるのか、不思議でならなかった。

その「不動心」のルーツは高校時代にある。田中は創価高校1年の冬に右肩痛を発症して以来、高校生活のほとんどを外野手として過ごした。さまざまな病院を回ったが、診断も対処法も医師によって言うことが違う。本当の原因はちっともわからず、田中は「(最初は)右肩と向き合うのがしんどくて逃げていた」と明かす。そうした日々のなかで、田中は徐々に達観の境地に達したのだろう。

「本物の人を見極める力がついたと思います。今は信頼できる理学療法士と相談しながら肩の強化をしています。『本物』というのは、もちろん『自分にとってプラスになる』という意味ですけどね」

投げられない不遇の時期を経験したからこそ、田中は己を見つめる術(すべ)を自然と体得した。その上で客観的に「プロに行けばボコボコにされる」と自分を低く評価しているが、それは田中に高い理想があることの裏返しだ。

「今のプロ野球は大谷君でもっていると言ってもおかしくない。あそこまで人をワクワクさせる選手はそうはいないですよね。みんな、『今日、大谷が先発じゃん』とテレビをつける。自分もそんな選手を目指していくべきだと思っています」

田中は「なれるかどうかはは別として」とつけ加えたが、実際にはすでに頭の中でイメージができているのではないか。その点について聞くと、田中は苦笑い交じりにこう答えた。

「どこかでそうなれる自信があるんでしょうね。まだ一球も投げていないくせに、生意気な発言をしていることはわかっているんですけど」

田中正義のプロ1年目は、「大物ルーキー」という前評判からすると、期待外れに終わる可能性が高い。だが、それでも自信が揺らぐことはないだろう。田中が名実共に「大物」と呼ばれる日もそう遠くはないはずだ。

(取材・文/菊地高弘)