あす3月11日で、東日本大震災から6年になります。 しかし復興が進んだとはいい難く、いまなお仮設住宅での生活を余儀なくされている方も少なくありません。また、その一方では、南海トラフ地震がいつ起きてもおかしくない状況にあります。

だからこそ私たちがすべきは、震災が起きた時に身を守る方法を身につけておくことであるはず。そこでご紹介したいのが、『大地震・火災・津波に備える 震災から身を守る52の方法〔改訂版〕』(目黒公郎監修、株式会社レスキューナウ編集)。東日本大地震、熊本地震の緊急性に鑑み、2006年の『大地震 死んではいけない!』(アスコム)を大幅に加筆修正したものだそうです。

編者は、24時間365日絶え間なく危機管理情報収集・配信を行う危機管理情報センターを運営している企業。途上国の地震防災の立ち上げ運動にも参加しているという監修者は、地震や災害に関するオーソリティです。

本書を手に取ったあなたには、まず、もしあなたが地震とその後の災害に遭遇した場合、あなたとご家族がどんな危険にさらされ、日常生活がどうなってしまうのかを想像(イメージ)して欲しいのです。これができる力を私は「災害イマジネーション力」と呼んでいます。災害をイメージする力があれば、地震が起きた後、あなたがどういう状況に置かれるか、そのためにいま何をしておくべきなのかが、具体的にわかります。

地震が起きる前にできることの多さ、使える時間の長さは、地震が起きてからとは比較になりません。いまイマジネーション力を働かせることができれば、先取り、先回りで、あなたが受けるであろう被害を、あらかじめ軽くすることができるのです。(「監修者のことば 災害イメージ能力があなたの生命を守る」より)

そのような考え方に基づく本書の第2章「最低3日間、自力で生き抜こう!」から、「『帰宅難民』とならないために」に焦点を当ててみましょう。

帰宅難民となったときのための下準備

都市には、周辺から毎日多くの人が職場、学校、娯楽施設などに集まってきています。そのため、もしも昼間に大地震が起きて交通機関がストップしたら、多くの人たちは速やかに自宅に帰ることができなくなります。

東京都では、東京湾北部でM7.3の地震が発生した場合、帰宅困難者が都内で447万人発生すると推計しているそうです。しかし2005年7月に中央防災会議が発表した報告書の試算では、帰宅困難者の数はさらに多く、東京都内で390万人、1都3県の合計は650万人にも上っているのだとか。

なお東京都では、帰宅可能率を「1.自宅までの距離が10キロ以内の人は全員の徒歩帰宅が可能、2.自宅までの距離が10キロ〜20キロ以内の人は、帰宅距離が1キロ増えるごとに10%ずつ帰宅可能者を逓減、3. 自宅までの距離が20キロ以上の人は、翌朝までの徒歩帰宅は全員が困難」としているといいます。そこで、都が注意を促すためにつくっているのが「帰宅困難者10カ条」。

帰宅困難者10カ条

1. あわてず騒がず、状況確認

2. 携帯ラジオをポケットに

3. つくっておこう帰宅地図

4. ロッカーあけたらスニーカー(防災グッズ)

5. 机の中にチョコやキャラメル(簡易食料)

6. 事前に家族で話し合い(連絡手段、集合場所)

7. 安否確認、ボイスメール(災害伝言ダイヤル)や遠くの親戚

8. 歩いて帰る訓練を

9. 季節に応じた冷暖房準備(携帯カイロやタオルなど)

10. 声を掛け合い、助け合おう

(113ページより)

事実、2011年3月11日の東日本大地震では、首都圏の道路が大混雑しました。電車が動かず、車も使えなったとすると、歩く以外に帰宅方法はなくなります。自宅に帰り着くにはどの道を通ればいいのか、安全な道はどこなのか、その間の水や食料はどこで調達すればいいのか、家族にどうすれば連絡できるのか...など、考えておかなければならないことがたくさんあるということです。(112ページより)

もう一度よく考えたい 本当に「歩いてまで」帰る必要があるのか?

大地震が起きたら、早く自宅に帰って家族の顔を見たいと思うのは当然のこと。しかし、もしも家族の無事を確認できた場合は、すぐに歩いて帰宅するのではなく「待ってほしい」のだと著者はいいます。理由は以下の2つ。

1. 交通手段がマヒしている災害直後に徒歩で帰宅することには、予測不可能な危険が伴う。道中が安全かどうか、わからないからだ。また、道路はいっそう混雑し、緊急車両や救援物資の流れを妨げてしまうことも避けられない。

2. ただでさえ大変な徒歩帰宅をした後、再び歩いて職場に出てくることは難しい。

(114ページより)

大勢で危険な徒歩帰宅をするよりも、勤務先の周辺地域で災害対応をするほうがずっと安全で、建設的な活動につながる場合もあるということ。そこで、家族が離れ離れの状況で大地震に遭ったら、まずはあらかじめ決めておいた手段を順番に試し、互いの安否を確認するべきだと著者は提案しています。

そして無事が確認できれば、交通が極度に混乱している場合はあえて帰宅しないという選択をすべきだというのです。徒歩での帰宅を試みるのは、安否が確認できないときだけだということ。

内閣府の帰宅困難者対策の方向性も、「翌日帰宅、帰宅情報・休息支援」なのだそうです。少なくとも地震の直後には、徒歩帰宅することは避けたほうがよいのだとか。また会社に、徒歩帰宅をしなければならない人のためのグッズを揃えて置くことひとつの方法だといいます。(114ページより)

どこを通って、どこで寝るのか? 徒歩帰宅を想像してみよう

家族の安否が確認できない場合は、無理してでも徒歩で帰宅する必要が生じます。そうした人のため、道路の近くには支援ステーションが配置され、帰宅者の支援が行われることになるそうです。もし大地震が起きたら、こうした施設を活用しながら帰宅ルートを探すことになるわけです。

電車や車が使えなくなったら、職場や学校から歩いて帰らなければなりません。どの道路が安全か、火災などで通行止めになっている道路はあるのかを確認してから帰る必要があるので、平時に自分の帰宅ルートの確認をしておくことが大切。

ルートとなる道が支援道路ではない場合もあり、東京都が発表した危険度マップで高危険度地区に指定されている地域も多数。そこで実際に道路の安全がどこまで確保できるかを踏まえたうえで、平時に自分の帰宅ルートを確認しておくべきだということ。

そうすれば、いざというときに慌てずに済むわけです。最近では徒歩帰宅の予行訓練をしている団体もあるため、実際に歩いているのもいいでしょう。そうすれば、自分がどのくらいの地点でへばるか、必要となるものはなにかを体験できるわけです。また、「歩いて帰る帰宅支援マップ」も売られているので、それを携帯しておくのもひとつの手段。(116ページより)

徒歩帰宅の必須アイテム

東京では400万人近い帰宅困難者が想定されており、そうした人たちに対する支援策も検討されています。とはいえ忘れるべきでないのは、支援する側の人々も「被災者」であるということ。つまり、すべての帰宅困難者に対して十分な支援が行えないこともありうるわけです。

東京都は非常時のために食料や水などの備蓄を行なっているそうですが、2008年6月現在、東京都に住んでいる人の推計は1288万人。つまり都の備蓄がどれだけあっても、とてもまかないきれないということです。

もちろん都民全員が被災者になるわけではありませんし、市や区の備蓄、周辺県からの調達など、さまざまな支援手段はあるでしょう。しかしそれでも、輸送手段も含めて大災害発生から数時間で支援の体制が整うことはあり得ないと考えるべき。

そこで、歩いて帰宅したい人たちにとって大切なのが「自助努力」であり、重要な意味を持つのが「帰宅困難者の必須アイテム」。まず絶対に入れておかなければならないのは、その人個人にとっての必需品。毎日飲まなければならない薬、コンタクトレンズなどで、それらのものが公的に、迅速に援助される可能性は低いわけです。

そして共通の必需アイテムが、1.情報を入手するためのラジオ(ライト付き、充電機能付き)、2.トイレ用品(2〜2回分)、3.水または浄水ボトル、4.地図の4点。

携帯トイレは阪神・淡路大震災の際に注目された非常時のグッズ。東京では1200万人以上の人の汚水・汚物が毎日排出されるので、ぜひ携帯しておきたいところ。また、事前に帰宅ルートを想定していたとしても、そのルートを通ることができず、なじみのない道を通って帰らなくてはならない事態になることも考えられます。そのため、地図も必需品となってくるというのです。

さらに、家族と連絡をとるための手段として見逃せないのは、最もかかる確率が高くなる公衆電話なのだとか。そのため、10円玉・100円玉を財布か非常袋に入れておくといいそうです。(118ページより)


防災対策、家の倒壊の防ぎ方、室内を安全にしておく方法、「公助」がくるまでのサバイバル方法など、実践的で役立つ情報満載。いざというときのため、手元に置いておきたい1冊です。

(印南敦史)