その旅のスタイルから“リヤカーマン”と呼ばれる永瀬忠志さん。これまでに歩いた総距離は4万7千km以上。2005年に植村直己冒険賞受賞

『クレイジージャーニー』に出演して一躍有名になった“リヤカーマン”こと永瀬忠志さん。現在61歳で、2005年には創造的な勇気ある行動をした人に贈られる植村直己冒険賞を受賞している冒険家だ。

リヤカーを引きながら徒歩で旅を続け、19歳で日本縦断。22歳からは世界へ飛び出しオーストラリア大陸横断(4200km)、33歳でアフリカ大陸~サハラ砂漠横断(1万1100km:フルマラソン225回分!)、48歳で南アメリカ大陸縦断(8800km)など、これまで歩いた総距離は4万7千km以上と、実に地球一周分以上!

そんなレジェンドと、週プレNEWSの連載でもお馴染み、3年前からバックパッカーとして世界一周を続けているマリーシャが一時帰国したタイミングで対談が実現! 旅の極意を指南していただこうと女子目線で質問をぶつけたところ、リヤカーマンのピュアでハードな美学が浮き彫りになったのであった…!

マリーシャ (著書『リヤカーマンって知ってるかい?』の表紙を見ながら)唐突ですけど、リヤカーって、このワンサイズだけなんですか?

永瀬 いえ、これは大型のほうで、今は「田吾作4号」を使っています。

マリーシャ 田吾作? それって名前ですか?

永瀬 はい(笑)。19歳の時に日本縦断した時のリヤカーには「大左ェ門」と名付けました。『いなかっぺ大将』の主人公の名前で、リヤカーを引いて歩くのも田舎っぽいし自分も農村の出身だしピッタリだなと。それは農家の人から中古を買ったのですが、オーストラリアを横断した2台目は新車を買い「田吾作」と名付けました。3台目はもう何も思いつかなかったので「田吾作2号」(笑)。今は4号まできました。あとは小型の「田吾作ジュニア」があります。

マリーシャ 旅は大変なのに、割と適当に名付けるんですね(笑)。ジュニアはどれぐらいの大きさですか?

永瀬 車椅子を畳んだぐらいの大きさになる折り畳み式リヤカーで、そのまま空港で預けられる大きさです。モンゴルに行こうと思って、小さいものを探していた時にホームセンターで見つけたんですよ。

マリーシャ リヤカーを売ってると思わずチェックしちゃうんですね(笑)。

永瀬 見ちゃいますね(笑)。ジュニアはモンゴルで1号が、タクラマカン砂漠で2号が壊れちゃって、今は3号を使っています。

マリーシャ 洋服は何着持って行くんですか?

永瀬 アフリカでは約1年歩いたんですけど、ズボンは3着、シャツは5枚、靴は10足用意しました。

マリーシャ やっぱり靴が多いんですね!

永瀬 靴によっては2千kmぐらいで穴が開いたり4800kmぐらい歩いても問題なかったり、見た目は同じなんだけど履いてみなきゃわかんないですね。同じ種類の靴だと同じぐらいで穴が開くんで「あと400kmぐらいかな」ってわかります。その時は大体1足2800kmで、最後に着いた時は5足目の靴を履いていました。

1泊するための道具があれば、100泊でも1年でもいける!

マリーシャ そのメーカーで働けそうなぐらい耐久性を把握しちゃってますね(笑)。やっぱり性能のいい有名スポーツメーカーのものを選ぶんですか?

永瀬 いえ、安いジョギングシューズです(笑)。私は足が大きくて29cmあるんで、なかなか売ってないんですけど、たまたま特売で2千円ぐらいだった時に10足ぐらいまとめて買っておくんです。

マリーシャ 全くこだわらないんですね(笑)! 洋服も機能性より値段重視ですか?

永瀬 そうですね。この本の表紙のシャツもニチイというスーパーで買った女性用のインナーシャツみたいなもので300円ぐらい。

マリーシャ えっ、この表紙の赤白ボーダーシャツって、実は女性用なんですか!?

永瀬 はい、安かったから(笑)。あと、高校生の頃に初めて長距離を自転車で旅した時、親戚のおじさんがこんなシャツを3枚くれたんですよ。それ以来、旅にはなんとなく縞々のシャツを買うようになって。

マリーシャ 旅の“勝負服”なんですね! 短パンも同じのを履き潰す感じですか?

永瀬 そうですね。リヤカーを引いていると、短パンの腰の所が擦れて破れちゃうんですよ。穴が空いたら布を当てて縫って、そこが破れたらまた縫って。ゴムが伸びたら荷造り用の紐で結んだりしながら、これだけ履けば充分かと思うぐらいになったら次のズボンに移ります。

マリーシャ 今日はコレってコーディネートするんじゃないんですね(笑)。正装みたいな服も持って行くんですか?

永瀬 はい、帰りの飛行機で着るシャツは使わずにリヤカーに積んであります。飛行機の中で汗などの臭いがしてもいけないから(笑)。

マリーシャ それにしてもホームセンターやスーパーで揃えるなんて、ホントに荷物にはこだわらないんですね(笑)。でも、コレだけはプロ仕様じゃなきゃダメ!っていうグッズもあるんでは?

永瀬 うーん…今は思いつかないですね。次の旅の途中で「あっ、あの質問の答えはこれだった!」っていうのが出てくるかもしれません(笑)。

マリーシャ 永瀬さんの旅ってすごく装備が多いですけど、いつも使っている物を日本から送るんですか?

永瀬 はい。旅をするための道具って大体決まっていて、1泊するための道具があれば、100泊でも1年でもいけるから。あとは水と食料を継ぎ足しながらですね。

マリーシャ ただ、一番大きい荷物がリヤカーですよね(笑)。このままでは海外に送れないですよね?

永瀬 持ち手の鉄パイプと車輪を外すと箱になるので、その中にテントなど旅で使う道具を入れて、車輪と持ち手も入れてロープで結べば梱包できちゃうんですよ。航空貨物でも船舶貨物でもほぼ同じぐらいです。リヤカーを送りたいという話をすると、ちょっと安くしてくれるんです(笑)。確かアフリカへ送った時は船便で6万円か6万5千円ぐらい、オーストラリアへ飛行機で送った時も7万円ぐらい。

そういう音がしたらワニなんですよ!

マリーシャ 意外に安い! でも、ちょっとした海外旅行に行ける金額じゃないですか(笑)。砂漠とかジャングルとか過酷な場所ばかり選んでますけど、危ない目に遭ったりはしないんですか?

永瀬 まあ、住民に会っても走って逃げられることが多いですね(笑)。アフリカを歩いている時も、頭に荷物を乗せた女の人が100mぐらい先で立ち止まってこっちを見ていて、近づいたら全速力で向こうに走って行きました。崖をずり落ちながらよじ登って逃げて、上から見ている人たちもいたりして。

マリーシャ 逆に怖がられてる(笑)。宿泊はテントですよね? 野外だと野生動物が出てきそうでちょっと怖いんですけど、遭遇したりは?

永瀬 ボリビアを歩いていた時ですが、夕方、草地で寝ようとしてたら、そこから50mぐらいの池からパシャーンという音がする。そういう音がしたらワニなんですよ。でも移動も面倒なのでそのまま寝てたら、夜、テントの横で気配がするんですね。やがてテントをスーッとこすって何かが通って…。もう体を丸めてやり過ごしました(笑)。ライオンの唸り声が聞こえてきたこともありましたけど、何かに襲われたとかいうことはないですね。

マリーシャ そんな所でよく眠れますね!

永瀬 あと、サハラ砂漠ではものすごい砂嵐に遭いました。杭でテントを固定すればいいんですけど、その日は静かだったし、まあいいだろうとそのまま寝てたら、夜中になって急に強風が吹いてきて、テントがもうバタバタ揺れて飛ばされそうになって。固定しようにもリヤカーの道具に手が届かなくて、仕方がないからそのまま寝てました。

マリーシャ 寝たんですか(笑)!? 豪快! 砂漠は私も時々行きますけど、景色も同じだし右も左もわからなくて、道に迷いそうで怖いです…。どうやって進むんですか?

永瀬 ドラム缶やコンクリートの柱とか目印が1kmおきにあって、それに沿って行きます。車の轍(わだち)もありますしね。でも急に目印から逸れて行ったりしてて、「あれ、こっちに行って大丈夫かな」って思ううちに2本道に分かれ、太いほうに行ったらまた分かれてて、だんだん薄くなっていって…。不安になりましたね(笑)。

マリーシャ 怖い! もし遭難したら、灼熱の中で誰も探しに来てくれないまま死んじゃいますよ(笑)!

永瀬 はい。車もほとんど通らないんですよ。あの時は4時間ぐらい経ってようやく車がやって来るのが見えたので、急いで走って行って道を聞けたのでよかったですけど…。

マリーシャ でもヒッチハイクで乗せてもらうわけじゃなく、また歩くんですよね(笑)。そういう旅では、水はどうしてるんですか?

永瀬 最低でも15リットル、多い時で60リットルのポリタンクをリヤカーに積んであって、水が手に入る時に補充します。村で聞くと水場を案内してくれるんですけど、遠いと3~4kmも離れていて、小川だったり、穴が掘ってあったり、山の斜面からポタポタ垂れている水を貯めてあったり、湧水もあります。色も紅茶を薄めたような茶色から牛乳を薄めたような白だったり、魚が跳ねていたり。そこで水を汲んで持って帰るんですけどね。

70%ぐらいの人は見て見ぬふりか無視…

マリーシャ 茶色い水を飲み水に!? せめて煮沸はするんですよね?

永瀬 夕方はお湯を沸かしてインスタント味噌汁やココアを作りますけど、ただ飲む時は面倒なのでそのままですね。

マリーシャ …お腹壊したりしないんですか?

永瀬 ええ、しょっちゅう下痢してますよ(笑)。下痢はひと晩で治ることもあるんですけど、胃が痛くなると1週間ぐらい治らないですね~ハッハッハッ!

マリーシャ 体調崩しても気にしないなんて、ほんと豪快! 病気も心配ですけど、マラリヤ対策とかはどうしてたんですか?

永瀬 予防薬を飲みなさいって言われたけど、なんかイヤで、用量を半分に減らして飲んでたんです。

マリーシャ それでちゃんと効くんですか?

永瀬 それで、かかっちゃったんですよ。

マリーシャ 信じられない~! もしかしたら死んじゃうかもしれない状況ですよね!?

永瀬 次からはキッチリ飲むようにしましたけど、あの時は本当に全然ダメでしたね。40.7度ぐらい熱が出て自分の力ではもう治せなくて、このままどうなるんだろうと思いました。泊まった村の人が通りがかったトラックを停めてくれて、100kmぐらい離れた街の医者まで連れて行ってもらったこともあります。

マリーシャ 私もそうですけど、初対面の人でも助けてくれたりするし、そういう出会いって、やっぱり旅しててよかったなと思う瞬間ですよね!

永瀬 そうなんです。歩いていて思うのは、70%ぐらいの人は見て見ぬふりか無視。20%ぐらいの人は「なぜ?」と不思議がる。5%ぐらいの人は見下したりバカにしたりで、最後の5%ぐらいがやたら感心してくれる。言葉も通じないけどリヤカーを押してくれたり、助けてくれようとしたり。

マリーシャ やっぱり感心されると嬉しいものですか?

永瀬 そうですね。特に惨めな思いをしている時は元気が出ます。「よーし、行くぞ!」って(笑)。

マリーシャ 差し入れとかも貰えちゃったりは…?

永瀬 ああ、コンゴで大きなスイカを貰ったことがありましたけど、ひとりでは食べ切れないし、しばらく積んで歩いてたけど重くて。結局、ジャングルに向かって投げました。

マリーシャ (爆笑)旅先は気候が温かい所がメインですか?

永瀬 そうですね。一度、寒いほうに足を向けましたが、お金が続かなかったですよ。やっぱり暑いほうが安く済むから。

マリーシャ そういう決め方なんですね(笑)! 確かに暑い国のほうが比較的安上がりですよね。ニューヨークとか都会の旅はどうですか?

永瀬 歩きにくいですね。パリは車道と歩道の段差があって、リヤカーを何度も引っ張り上げたり下ろしたりしなきゃいけなくて。それにジロジロ見られますからね。カフェでコーヒー飲んでる人たちに一斉に注目されるから、もう恥ずかしくて(笑)。

マリーシャ あっ、そういう感情はあるんですね(笑)!?

◆後編⇒61歳の冒険家“リヤカーマン”が過酷な旅を選ぶ理由 「終わった時に心に残るのはキツかった所なんですよ」

(取材・文/明知真理子 撮影/松井秀樹)

 

永瀬忠志(ながせ ただし)1956年2月15日生まれ 島根県出身。その旅のスタイルからリヤカーマンと呼ばれ、これまでに歩いた総距離は4万7千km以上。2005年に植村直己冒険賞受賞。〇永瀬さんが登場する、2016年ギャラクシー賞5月度月間賞受賞した回を収録した『クレイジージャーニーVol.4』(DVD)が絶賛発売中!

■ マリーシャ9月8日生まれ。東京都出身。レースクイーンやダンサーなどの経験を経て、SサイズモデルとしてTVやwebなどで活動中。バックパックを背負う小さな世界旅行者。オフィシャルブログもチェック! http://ameblo.jp/marysha/ Twitter【marysha98】 instagram【marysha9898】