過去の『週刊プレイボーイ』をふり返る水道橋博士

芸人として活躍する一方、ルポライターやコメンテーターなどジャンル横断的に活躍。熱狂的な活字マニアとして知られる水道橋博士は『週刊プレイボーイ』をどのように読んできたのか?

エロ話に花が咲いた前編記事に引き続き、“ちゃんと”具体的な記事に言及しながら進んだ後編をお届けします。博士が考える「週プレイズム」とは? 雑誌文化にかける偏愛にまで迫る。

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―博士の過去の発言をさかのぼると、アントニオ猪木と前田日明の対談記事(1997年8月14・16日号)は衝撃だったと。

「当時、俺はプロレスを大河ドラマのように捉えていたからね。ずっといがみ合っていた師弟が再会して、許しあう姿に本当に感動しちゃって。週プロじゃなくて、週プレに掲載されたスクープ記事。よく覚えているよ」

格闘界を背負っていたふたりが歴史的和解! なぜ、前田は猪木を批判し続けたのか? なぜ、猪木は前田とシングルマッチを避けたのか? スクープ発言の連続に日本中のプロレスファンが熱狂した。 猪木×前田(1997年8月14・26日号)

―後に、この記事を担当したライター(佐々木亨氏)からインタビュー取材(「いきもん伝」2013年7月15日号)を受けられています。

「俺が猪木×前田対談に衝撃を受けたことを知っているから、インタビュー原稿が対談からの引用に次ぐ引用で構成されているんだよね。今、まとめている本でその一部を再録しているんだけど、担当編集者から『何が書いてあるかわからない』って言われてさ。そりゃそうだよ? 俺が読んだって、ワケわかんないもん!」

―ある意味、博士に“シュート”を仕掛けたような記事でした。

「読者というより、完全に俺に向けて書いてあるからね。この取材は橋下徹(当時、大阪市長)の発言にムカついて番組を降りた直後に行なわれたもの。かなり細かいところまで語ったはずだけど、上がった原稿は引用と妄想のオンパレード。唐突にあんなことやるからワケわかんないけど、週プレでは許されちゃうのが面白いよね」

テレビ大阪『たかじんNOマネー』の生放送中に、橋下徹大阪市長の発言をめぐって博士が途中退席した事件の裏側をインタビュー取材…だったはずが、全編にわたって猪木×前田対談からの引用で記事が構成された。 いきもん伝(2013年7月15日号)

―そういう許容というか、遊びの部分はこれからも大切にしたいものです。他にも博士は日記で週プレの記事にたびたび言及されております。

「岡山の記事(2013年5月20日号)があったでしょ? この前、TVの番組で『倉敷市に移住するのがどれだけアドバンテージがあるのか?』というテーマで討論したんだけど、手元に資料がないのに震災リスクがどうとか、次々にトピックが思い浮かんでさ。後で、あれは週プレの記事だって気づくんだけど。古館さんがブルーハーツを語る記事(2015年3月9日号)もよかったね」

原発事故後、移住先ナンバーワンと人気を集める岡山県を特集。安全度から桃太郎伝説までをレポートした12ページの大特集。 岡山、古舘×ブルーハーツ(2013年5月20日号)

ネットじゃ拾えない貴重な情報がある

2015年3月9日号古舘伊知郎が司会の『夜のヒットスタジオ』でブルーハーツが登場した“伝説の7分間”を古舘自らがふり返ったインタビュー。動画を見ながら甲本ヒロトの一字一句を追いかけ、スタジオの模様が臨場感たっぷりに伝えられた。

―古舘伊知郎が80年代に司会をしていた『夜のヒットスタジオ』でブルーハーツをゲストに迎えた時をふり返った企画ですね。

「確か、ライターのモリタタダシが担当した記事だよね? これがきっかけだと思うけど、昨年12月に放送された『古舘伊知郎のオールナイトニッポンGOLD』でブルーハーツの『リンダリンダ』がかかってね。曲の前に古舘さんがまさにこの記事にあったようなことを話すんだけど、『僕はVTRを見返して、正確に言いますけれど』って言いながらも、その内容が間違っていた」

―わざわざ「正確に」と前置きしたにも関わらず?

「うん。今はネットですぐ調べられるでしょ? 事実は全部、お見通しなんだよね。古舘さんに限らず、人間は記憶を作り変えることが常なる生き物。だから俺自身、年表を作って記憶をできる限り忠実に留めているけど、やっぱり正確なものにするには修正というか更新が必要になってくる。

でも、世の中の大半はそうじゃない。みんな言いっ放しだし、さらに盛ることも当たり前。最近はネットニュースがその代表かもしれないけど、雑誌も人の話に乗っかって事実より面白いほうに流されることもあるから、気をつけないと」

―確かに、信頼という点で雑誌の立ち位置は以前と変わってきているかもしれません。

「でも、ネットじゃ拾えない貴重な情報がまだまだあるからね。在庫処分する雑誌が増える一方で、残さなきゃいけない雑誌もここのところ増えた。この前、献本されてくる『婦人公論』が3年分たまったから処分しようかと思ったけど、中をザッとさらったらスクープ級のとんでもない対談やインタビューがあることに気がついて」

―小保方晴子と瀬戸内寂聴の対談が話題になったのも『婦人公論』でした。

「『婦人公論』はネットで話題になることはほとんどないでしょ? 紙でしか見られないオリジナルの記事が脈々と続いていて、そういう雑誌はやっぱり残していかないと。俺みたいな芸能人のルポを書いている人間からすると、貴重な資料になる。

それと、雑に扱えないのがコンビニで売られている500円本。宮崎哲弥さんに教えてもらったんだけど、管賀江留郎(かんがえるろう)というノンフィクション作家が書いた戦後の少年犯罪モノがとにかく面白い。少年犯罪は今が一番、闇深いなんて言われているけど、実は戦後10年くらいがピークだったらしい。『三丁目の夕日』の世界とは全く別の戦後が濃密に描かれている」

週プレの魅力は、ずばり、エロ!

―超多忙な日常なのに、雑誌はいつ読まれてるんですか?

「正直、その時間はほとんどないね。今日も朝から10日間の日記、約11万字を連載用に4万字にする作業をやって、それから自分が編集長のメルマガ『メルマ旬報』の60大連載を読んで、それだけで1日が終わっちゃう。唯一、雑誌を読める時間はレギュラーがある名古屋に向かう新幹線の中。あらゆる週刊誌を買って並べて、一気に読む。その2時間だけは至福の時だよ」

―雑誌を読む時間こそ、至福だと。

「そもそも俺は紙そのものが好きだからね。実家が紙問屋だし、しかも『紙のカミヤ』っていう名前で。『紙のカミヤの俺は紙が好き』で、本や雑誌を愛している。言葉と行動の両方で韻(いん)を踏むのは漫才師の体質というか、俺としては当たり前のこと」

―週プレは50周年を迎えましたが、長年の読者である博士にとって週プレの魅力はどこにあると思われますか?

「ずばり、エロ、だと思う。週プレは絶対にエロを隠さないでしょ? エロはもっと解放されて然るべきもので、人はエロに向かったほうが絶対幸せになる。俺のところに時々、政治家になってくれという誘いがくるんだけど、何よりお笑いこそが最上位の職業だと思うから全部断る。

だけど、そのお笑いだってエロには敵わない。人間はリビドーを置き換えて、政治をやったり、本を書いたり、周りに認められるような仕事をしたいと願う。エロがもっと解放されれば戦争だってなくなるはずだよ」

―エロにも世知辛い時代ですが、週プレはもっともっと追求したほうが?

「週プレはエロを認めているからこそリベラルな誌面作りになっているはず。今、どうかと思うような右翼雑誌が増えているでしょ? 右に染まるのは一瞬、リベラルが育つのは時間がかかる。50年続く雑誌の意味って絶対にあると思う。

繰り返し言うけど、エロこそ最上の概念だからね。俺、生まれ変わるなら本気でカンパニー松尾になりたい人間だもん。しみけんと『ムラッとびんびんTV』をやっているのも本気でエロを解放したいから。週プレはこの先もエロに向かって世の中を幸せにしてほしいね」

(取材・文/大野智己 撮影/本田雄士)

 

●水道橋博士(すいどうばしはかせ)浅草キッド/漫才師。1962年8月18日生まれ、岡山県倉敷市出身。86年にビートたけしに弟子入り、翌年、玉袋筋太郎とともにお笑いコンビ「浅草キッド」を結成。TVやラジオ、漫才を中心に活躍する一方、コラムやエッセイを執筆。主な著書に『藝人春秋』『博士の異常な健康』、最新刊は『はかせのはなし』。自身が編集長を務める日本最大級のメールマガジン『水道橋博士のメルマ旬報』が好評配信中。主な出演番組に『総合診療医ドクターG』(NHK)、『ゴゴスマ』(TBS)、『バイキング』(フジテレビ)、『バラいろダンディ』(TOKYO MX)等。Twitter【@s_hakase】 水道橋博士のメルマ旬報もチェック!