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沖縄二紙がキレた『ニュース女子』ー東京MXテレビは居直り、「議論」=デマの寄せ集め

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
『ニュース女子』の沖縄レポートより

東京都のローカル地上波テレビ局「東京メトロポリタンテレビジョン(東京MXテレビ)」が放送している情報番組『ニュース女子』への批判が高まっている。

1月2日に放送された同番組の特集「沖縄基地反対派はいま」について、沖縄の地元紙『沖縄タイムス』「悪意むき出し」と、『琉球新報』「公共の電波を使った沖縄に対するヘイトスピーチ」と社説で猛批判。また、番組で名指しされた市民団体の代表がBPO(放送倫理・番組向上機構)に人権侵害を申し立てる事態にも発展。東京MXテレビの株主でもある東京新聞も、『ニュース女子』批判記事を大きく掲載した。

これほどの強い批判を招いた理由としては、単に政治的に偏っているというだけでなく、明らかに事実と異なることを「マスコミが報道しない真実」であると、同番組が主張したからであろう。外交・安全保障についての考え方は、人それぞれであるし、メディア上でも様々な角度からの議論は行われるべきだ。だが、『ニュース女子』の沖縄レポートは、放送法4条「報道は事実をまげないですること」に反するものであり、東京MXテレビ自体も社としての姿勢を疑わざる得ないメッセージを発している。

◯現場に行かない「現場取材」、事実無根の中傷

『ニュース女子』の「沖縄レポート」は、何が問題だったのか。特に酷いと言えるいくつかの点について順に解説する。同レポートは、沖縄本島北部・高江での米軍ヘリパッド建設への反対運動について、ジャーナリストで産経新聞「正論」欄執筆者である井上和彦氏が「過激な反対派の実情を現地取材」したというVTRと、コメンテーター達のスタジオトークから構成されていた。だが、「現地取材」と銘打ちながら、実際には、井上氏は高江のヘリパッド建設地から、運転距離にして40キロ以上も離れた二見杉田トンネル(名護市)前までしか行かず、高江での反対運動については、現地取材などしていなかったのだ。しかも、番組VTRでは「反対派の暴力行為により高江ヘリパッドに近づけない」との字幕スーパーとナレーションが入った。また、スタジオトークでも、「他のメディアでも現場に入れない」と語られていた。反対派が、抗議活動を行っているヘリパッド搬入口「N1ゲート」前には、誰でも行けるし、当然、東京に本拠地を置く大手新聞各社やテレビ各局の取材陣も取材に入っている。筆者も何度も現場に行っているが、「反対派の暴力行為」などの被害を受けたことは一度もない。あの、安倍晋三総理大臣の身内である昭恵夫人ですら、N1ゲート前を訪れているのだ。上記のような『ニュース女子』の表現は明らかに事実と異なる。

N1ゲート前でのヘリパッド建設反対集会。昨年12月筆者撮影
N1ゲート前でのヘリパッド建設反対集会。昨年12月筆者撮影

◯「救急車への妨害」デマ

「救急車への妨害」デマも悪質だ。番組VTRには、ヘリパッド建設地である東村の住民である男性が登場。「反対派がヘリパッド建設地に向かう車の検問をして、救急車の通行も妨害している」と語った。だが、こうした主張は、地元紙の『沖縄タイムス』が現地消防署に問合せ、デマだと確認している。事実確認もせず、虚偽のコメントを紹介することは、報道機関としてあってはならないことである。ちなみに、この男性は、SNSなどネット上でも、「反対派が頻繁にドクターヘリを呼びつけるので、本当に緊急性が高い患者の搬送に悪影響が出ている」との趣旨の投稿をしていたが、これも事実と異なる。ドクターヘリの出動させるか否かは、現地消防署が判断することで、個人が呼びつけることはできない。また、現地の出動実績からも否定されていることだ。

◯根拠も無しに「反対派は金が目的」という印象操作

番組VTRでは、米軍基地支持派の活動家で、2016年夏の参院選で「日本のこころを大切にする党」の公認候補でもあったボギーてどこん氏が「反対派は日当を得て参加している」と主張。抗議現場近くで拾った、金額が書かれた封筒を「証拠」だと言い張った。井上氏らのスタジオトークでも、ヘリパッド反対運動が、純全な反対運動ではなく、総会屋的な「抗議ゴロ」であるかのような発言のやり取りが行われた。だが、ボギー氏が「証拠」とする封筒が、反対運動に参加する人々に支払われた明白な根拠があるのか、そもそも交通費などの経費の支払うことを「カネ目当ての活動」と拡大解釈することはおかしいのではないか等との問い合わせを、筆者含め、いくつかの媒体の記者らが東京MXテレビに問い合わせているが、これに対し、東京MXテレビは明言を避けている。また、ヘイトスピーチへの反対を主な活動とする市民団体「のりこえねっと」が、高江の現状を知ってもらうため、現地を訪問しようとする人へ交通費等の経費を集めたカンパのなかから提供すると呼びかけたことについて、『ニュース女子』は「日当5万円」であると歪めて紹介。しかも、当の「のりこえねっと」には取材を一切行ってなかったのだから、呆れ果てる。

のりこえねっと声明

http://www.norikoenet.org/top2

◯「警察がデモを取り締まらない」「翁長知事がトップだから」>明らかに間違い

右派系インターネツトテレビ「日本文化チャンネル桜」の沖縄支局のキャスター我那覇真子氏の発言も酷かった。繰り返される米軍による犯罪や騒音・環境破壊など沖縄の人々が苦しめられ、安倍政権が「基地負担軽減」を語りながら、実際には基地負担の増大を強いているからこその基地反対運動を「犯罪」呼ばわり。「現地の人々も迷惑しているのに、何故取り締まらないのか。それは沖縄の警察のトップが翁長知事だから」との発言も事実誤認だ。各都道府県の知事は、都道府県の警察を監督するものの、指揮命令権はない。あくまで、各地の警察に指揮・命令する権限を持つのは、警察庁だ(関連情報)。そんな初歩的な間違いを井上氏らはスタジオトークの中でも繰り返していたが、沖縄県警のみならず全国から高江へ動員された機動隊員に、翁長知事が何の権限を持っていると言うのか。さらに「警察はなぜ取り締まらないのか」とも議論されていたが、警察や機動隊は、座り込みなどをしている反対派の人々をごぼう抜きに担ぎ上げ運び出すだけでなく、拳で顔を殴りつけたり、首を腕で締め上げたりするなど、かなり暴力的に排除している。何をもって「取り締まっていない」と言うのか

ヘリパッド建設抗議活動の参加者に襲いかかる機動隊
ヘリパッド建設抗議活動の参加者に襲いかかる機動隊

◯沖縄だけでなく、メディアを愚弄した東京MXテレビ

『ニュース女子』を制作しているのは、化粧品やサプリで知られるDHCの関連会社「DHCシアター」だ。東京MXテレビは、放送枠を提供しているだけだとも言えるが、テレビ局として放送法を尊守することが求められる上、東京都も同局の株主であるなど、その社会的責任は小さくない。今回の問題について、筆者も上記のような事実確認などで東京MXテレビに問い合わせていたのだが、昨日の『ニュース女子』放送直前、同局から報道関係者向けに「1月16日の番組に続けて、当社メッセージを放送にてお知らせいたします」とのメールがあった。そこで、その「メッセージ」を視聴したのであるが、これが居直りとも取れるような、呆れたものであった。

東京MXテレビとしてのメッセージ
東京MXテレビとしてのメッセージ

つまり、本稿で指摘してきた番組中の虚偽について、何ら訂正や謝罪もなく、「様々なメディアの沖縄基地問題をめぐる議論の一環」としてしまったのである。全くふざけた言い草だ。「様々なメディア」というが、例えば、NHKや地上波キー局が『ニュース女子』の「沖縄レポート」ほど、事実に反することだらけの番組を放送したことは未だかつてない。はっきり言えば、極右ネットユーザーが集まるネット掲示板やまとめサイトでのデマを、そのまま番組にしたのが、今回の「沖縄レポート」だ。東京MXテレビのメッセージは、沖縄の基地被害に苦しみ憤る人々をバカにしているだけでなく、メディアという存在そのものを愚弄にしている。東京MXテレビの放送基準にも反することだろう。

《人 権》

放送を通じてすべての人の人権を守り、人格を尊重する。個人、団体の名誉、信用を傷つけない。差別・偏見の解消に努め、あらゆる立場の弱者、少数者の意見に配慮する。

《公共性》

政治、経済、社会生活上の諸問題は公平、公正に取り扱う。意見が対立している問題については、できるだけ多角的な観点から情報を提供する。

《訂 正》

放送が真実でなかったり不適切だったことが判明した時は、できるだけ速やかに明確な訂正、取り消しの放送をすると共に再発防止に努める。

出典:TOKYO MX 放送番組の基準

何度も強調しているが、「様々な議論」をするにしても、それが事実に基づいたものであることが、メディアとしての最低限のラインなのだ。それさえ守れず、虚偽に虚偽を重ねた放送を批判的検証することができないのであれば、東京MXテレビはメディアとして失ってはいけないものを失うことになる。関係諸氏には猛省を促したい。

(了)

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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