ご存知の方も多いかと思いますが、ナショナルジオグラフィックマガジンは毎月世界各国で900万部以上販売され、雑誌を取り扱わない古本屋さんなどにも、写真集的な扱いで多数置いてある大変メジャーな雑誌です。

少し前になりますが、私がワシントンD.C.を訪れた際、ナショジオのライターたちとゆっくり話す機会を得ました。彼らは砂漠に数ヶ月滞在したり、戦場へ出向いたりと、心身ともに過酷な取材環境を長年に渡り経験しています。話す言葉の中にも、奥行きのある洞察力を秘めています。私は、危険性をも乗り越えてしまうほどの知的好奇心に溢れた 「図太くも賢い人たち」という印象を受けました。

先日、そのライターの一人であり、僕の長年の友人でもあるNeil Shea(ニール・シェイ)氏のアパートに数日間滞在させてもらいました。二ヶ月に渡るアフガニスタンでの取材を終えて帰国したばかりだった彼と、三ヶ月間の中米の旅を終えたばかりだった僕は、「パンケーキの作り方」から「生きること」まで、ありとあらゆることを話し合いました。

その時に彼から聞いた話を「人生を図太く賢く生き抜くための10の秘訣」としてまとめてみたので、今回はその内容を紹介させて下さい。

イラク、マダガスカル、北極、キューバ、アフガニスタンなどを取材し、『Omo River』というエチオピア取材記事でローウェル・トーマス賞を受賞した彼はいったいどのようなことを話すのでしょうか? ライフハッカー[日本版]のみの独占インタビューです! 

 

1. シンプルに生きること

ライフハックについて考えた時にまず思いつくのが、現代社会の複雑さです。ほどけないくらい絡み合った糸をほどいていくことに追われている、というのが多くの人の現状ではないでしょうか? 

そんな複雑な人生を簡略化する過程でライフハックという概念が仕方なく派生した、と私は思います

本来、人の暮らし、自然の営み、というのはいたってシンプルなものです。例えば、北極を取材している時に思いがけないところで突然、ホッキョクグマに遭遇したとします。そういった場合に取るべき行動は一つ。とにかく全速力で走ることです。全てがここまでシンプルに答えが出る訳ではないとは思いますが...。

何かについて考える時は、細かく細かく掘り下げるだけでなく、逆に大きく大きく表面に向かって掘り上げて行くことも大切です。「オッカムの剃刀」という話があります。これは簡単に言うと「説明が多く存在する場合、最も簡潔な説明が真実に最も近い」という話です。

沢山のことを考慮に入れながら決断を下すことが大切な場合もありますが、情報の多さにに戸惑うことなく、シンプルに考えることを常に心がけています。


2. 明日に向かって捨てろ!

1. とも関連があるのですが、できるだけモノを増やさない、増えてきたら処分するという習慣をつける事で、自分に必要なモノは何か? というのが明確なります。本当に必要なモノというのは、実はそれほど多くありません。生きていくのにどうしても必要なのは、恐らく歯ブラシくらいです。虫歯だけは放っておいても治りません。歯ブラシも使い古したら、早めに取り替えましょう。


3. 身体が資本

ナショナルジオグラフィックの取材では、兵士と共に冬山を越えたり、アフリカの現地の人に連れられて砂漠を徒歩で横断したりと、かなり過酷な体験をしました。

そんなシチュエーションに陥ることは通常の人はないかと思いますが、へこたれない精神状態を保つためにも、習慣的に身体を動かす事はとても大切です。人は身体がへたれるより前に気持ちが弱ります。精神力を強く保つためには普段から身体を鍛えておくことです。これは自分にとっては仕事の一部でもあるのですが。

また、健康について考える時、運動だけでなく、何を食べるかも重要です。バランスを考え、健康的な食生活を常日頃から心がけています。本当にリラックスしたい時には、粉まみれになりながらパンを焼いてみるのが、私にとってのオススメ健康法です。


4. モレスキンノートを常に持ち歩く

これは気付いたことを書き留めたり、覚えておきたいことをメモしたり、落書きをしたりするのに使っています。要するに手軽なアウトプットの場所です。

ペンにはこだわりがないので何でもいいのですが、ある程度以上寒い環境だと書けなくなることもあるので、必ず何本か持ち歩き、鉛筆も数本は携帯するようにしています。職業柄なのかもしれませんが、書くことで整理すると考えもまとまりやすいです

色々なノートを使ってみたのですが、結局は手荒い扱いをしてもバラバラにならない耐久性を持った、モレスキンノートを愛用しています。

意外かもしれませんが、パソコンや携帯電話などの電子機器は、基本的に取材用には持ち歩きません。電気の供給が安定しない場所には、パソコンを持っていかないこともあります。


5. 進歩のない人間関係は切り捨てる

「気楽」で「自然」で「興味深い」会話が続く人とは、深く長い付き合いをすべき。もしそれが上手く行かない関係であれば、自分の時間も相手の時間も無駄になってしまいます。お互いを高め合える関係が望めない場合、早めに切り捨てる、または深入りしないのがベストです。


6. お金は罠である

お金がないと生きていくことは難しいですが、お金の心配ばかりを優先させてしまうと、人生をお金にコントロールされることになってしまいます。それは、自分の考え方や視野、自分にとって世界はどんな場所なのか、または世界にとって自分はどういう人間なのか、ということを考える機会を失うという意味です

人生を生きる上で、お金が一つの要素であることは間違いないですが、最も重要なものではないと思います。


7. グダグダ言わずにやってみる

「案ずるより産むが易し」ということわざもありますが、過度に心配をするのは不安要素を増やし、スパイラルにハマり込んでしまうだけです。

多くの人は、自分の未来を予言することに時間を費やしすぎる傾向があります。ですが、どんなに考えたところで、未来を予言することは絶対にできません。考えただけで解決できるのであれば、そもそもそれは「問題」ではないのです。

船は港にいる時最も安全であるが、それは船が作られた目的ではない」という言葉があります。目的を見誤らず、時間を無駄にしないようにしましょう。


8. 自然を恐れない

人は愛ではなく、恐怖に基づいて行動する生き物です。自然の中で居心地が良いと感じられないと、本来自然の一部である自分たちのことすら、恐怖に思えてくるかもしれません

自然を怖いと感じる方は、動物と戯れたり、雨の中を歩いてみたり、テントで寝たり、森へハイキングへ出かけたりする時間を増やしてみてください。


9. 日常生活のルーチンを変えてみる

ルーチンとは、言ってみれば無意識の行動です。毎日が同じような繰り返しだったとしても、小さなことを一つ変えてみるだけで、その無意識な日常は思った以上に変わります。

例えば、朝起きて一番最初にすること。テレビをつける人、パソコンでメールを見る人、コーヒーを淹れる人、シャワーを浴びる人と、色々なパターンがあるかと思いますが、ついいつもと同じ行動を取りがちになってしまいます。

ちょっといつもと違った気分になりたいと思ったら、例えば朝の30分読書してみたり、詩や絵をかいてみたり、ジョギングに行ったりして過ごすなど、意識的に行動してみるのが良いと思います


10. 人生とは、つまり自分探しの旅

人生において重要なのは彼女が美人なことでも、彼氏がお金持ちなことでも、友達が有名なことでも、大企業に就職することでも、ハワイに別荘を持つことでもありません。

生きて行く上で最も重要なのは、自分が誰なのかを発見することです

生活の上でインターネットが占める割合が増えつつある現代において、インターネットは便利に使うためのものであり、突き詰めて考えてみると、それほど重要ではありません。ネットを見ることに費やす時間は、「自分が誰なのか」という大切な問題には答えてくれないからです。

書くことは自分と向き合うことであり、「自分探し」でもあります

旅先で暮らす人たちに愛情を抱き、その愛情によって自分が感じた気持ちを表わすことが、一番素直な文章なのです。そして、そのような文章が書けた時に、自分が誰かということをほんの少し理解できる気がします。


最後に

最後に、ここでNeil氏から感想を頂いたのでご紹介致します。

普段はインタビューする側なので、公の場で自分の話をすることはほとんどありません。なので、インタビューを受けるという視点はある意味興味深いものでした。今回の話が何かの役に立てば幸いです。

実は大学四年生の頃に一年弱ですが、北海道大学に留学していたことがあり、日本にはとても親しみを覚えています。もうずいぶん前のことなので、おにぎりと尊王攘夷以外の日本語は忘れてしまいましたが(笑)。

留学から戻って以来日本には行っていないので、近い将来必ず訪れたいと思っています。このところ日本を題材にして書ける記事ネタを探しているのですが、まだナショジオの編集長のゴーサインが出るようなトピックに出会えていません。

もしナショナルジオグラフィックマガジンの内容にふさわしいトピック、こんな記事が読んでみたい、という提案があればぜひ教えて下さい!


バイオグラフィー

Neil氏はボストン郊外出身。国立公園でのパークレンジャーなどの経歴を経てライターに転身。現在は、ナショナルジオグラフィックマガジンのコントリビューティングライターをしながら、ノマド的な生活を送っている。詳しくは、こちら(英文)を。

NeilShea.net


というわけで、ナショジオライター、Neil氏による「人生を図太く賢く生きるための10の秘訣」をお届けしました。ちなみに文章中の「船は港にいる時最も安全であるが それは船が作られた目的ではない」は、小説家パウロ・コエーリョの言葉の引用です。

ナショジオの最新号2011年2月号に「ようこそ、パリの地下世界へ」というNeil氏の最新記事が掲載されていますので、興味のある方は、ぜひ読んでみて下さい! 

感想、提案などがあればコメント欄にお願いします! 

頂いた内容は、彼が知っている二つの単語「おにぎり」と「尊王攘夷」を絶妙に組み合わせて伝えておきますので、日本語で書いてもらって大丈夫です! 

(まいるす・ゑびす )