【月間総括】アプリの戦略的運用とゲーム機の性能定義について

 2016年12月15日,任天堂がiOS向けに「Super Mario Run」を投入した。直前に株価が急落したことで,App Storeの各国レビューの低さが要因として取り上げられたが,レビューと収益には相関性が薄いことや,投資家の関心がゲーム自体の面白さよりも収益性に向いていることを考えると,あまり関係はないように思われる。
 評価が低い点については詳細に取り上げても仕方がないのだが,エース経済研究所としては同タイトルについて,任天堂側が色付コインをコンプリートすることを目指してほしいと考えているのに対して,プレイヤーにその意図が伝わっていない点を挙げておきたい。無課金部分をクリアするだけであれば,あっさりできてしまうというギャップである。このようなギャップが発生したのは,お金を払ってからゲームを開始するコンシューマゲームに対して,F2Pを展開するノウハウの不足からきているのではないかと推測している。
 ただ,企業にとって大事なことは,「戦略レベルでの目標を達成できたか?」である。 前回,「任天堂の現在の戦略目標は,自社の強みが生かせるゲーム専用機ビジネスに対する関心を高めること」と指摘した。今回のSuper Mario Runは,スマートフォンの年間販売シェアで見た場合,10%強にすぎないiOSのみでのリリースであるにもかかわらず,1週間強で5000万ダウンロードを達成したこと,価格の是非やレビューの評価がニュースやネットを通じて話題になったことを考えると,この目標は達成できているように見える。その成果は,「Nintendo Switch」で確認することができるだろう。

 ところで,SIEも子会社のフォワードワークを通じて,スマートデバイス用ゲームに参入することを発表している(関連記事)。PS1,同2時代に国内でヒットした作品を中心に,幅広いラインナップとなったが,問題は何のためにやるのか? という点が見えないことである。
 以前,アンドリュー社長はIR説明会で,SIEのミッションをエコシステムの確立としていた。ならば,ファワードワークスも,その一助となるべきものだが,今回発表されたタイトルの多くで,10年以上絶えて久しいものが含まれており,シナジーが得られるように思えないのである。リアルカードゲームも展開されるが,PS4と連携するような表記が見られない。低迷が続く日本のコンシューマゲーム市場での収益改善策にすぎないのではないだろうか?。

 エース経済研究所では,とくにSIEJAの戦略目標の再構築が急務であると考える。現状では残念ながら,目の前の問題に対処しているだけで,抜本的な施策が採られていないように見えるのだ。SIE全体でもPS4のせっかくの成功を活かしきれず,PS NOW,PSVR,PS4 Proと2016年は躓きが目立っている。このような問題に対処するため,エコシステムの構築が目標であることを末端まで周知するとともに,手段が目標と合致しているかを確認するシステムを構築する必要がある。
 そろそろPS4の後継機も検討を進めなければならない時期にきているが,コンシューマゲーム機の登場から30年以上が経過し,ビジネスモデルは現在の市場の変化についていけてない部分がある。SIEは,業界のトップシェア企業としての責務を果たすべきであると,エース経済研究所では考えており,新しい方向性を打ち出すことを求めたい。

 さて,ここで話を変えよう。本誌編集長のaueki氏が先日,興味深い記事を掲載している(関連記事) Nintendo Switchの米国特許についてである。詳細は記事をご覧いただくとして,ここではエース経済研究所としての見解を述べる。まず,特許資料からドックまでの映像伝送信号はDisplayportが使われていることが判明している。Nintendo Switchはゲームカードの端子数は5ピンであること,ドックの接続コネクタが一つであることを任天堂サイドに確認している。これは補助記憶装置(SSDか?)やゲームカードの接続は高速シリアルバスであることを示唆していると考えている。フルHD伝送が可能なDisplayport1.2の伝送速度が5.4Gbpsであること,任天堂とNVIDIAが加入しているMIPIアライアンスのM-PHYの伝送速度もほぼ同じ最大5.7Gbpsとなっていることから,高速シリアルバスの帯域は5Gbps以上のものが採用されている可能性が高いと考えている。
 任天堂のゲーム機に対するメディア及びゲーム愛好家の一般的な印象は「スペックが低い」「家庭向け」といったものが多い。しかし,Nintendo Switchは前述のaueki編集長の記事にある通り,底辺のコネクタはUSB3.1TypeCと推測され,Displayport Over TypeCが使われていると思われる。
 しかも,携帯性を持つNintendo Switchで,据え置き型ゲームが動くことを考えると,演算性能やメモリのバンド幅ではPS4に劣っていても,内蔵ストレージやゲームカードとの接続速度はPS4を上回っていると見ており,総合性能は高いものと考えている。
 エース経済研究所では,SIEや任天堂,Microsoftにも責任の一端はあると考えるが,ゲーム機の性能とは何か? との定義付けが明確に行われていないため,性能の高低についてはイメージ論争の域を抜け切れていないと見ている。
 明けて2017年1月13日には任天堂が「ニンテンドースイッチプレゼンテーション」を開催する。エース経済研究所では,「ニンテンドースイッチ」がこのようなアーキテクチャを採用したのは,オープンワールドゲームの普及を見据えたものと考えており,プレゼンテーションではそれが垣間見えると予想している。

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