【栗山監督手記】大きかった第3戦の黒田との対戦 純粋に野球に入れた

[ 2016年10月30日 10:30 ]

SMBC日本シリーズ2016第6戦 ( 2016年10月29日    マツダ )

<広・日>ナインから胴上げされ笑顔の栗山監督
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 4年前の「忘れ物」をつかんだ――。SMBC日本シリーズ2016は29日に第6戦が行われ、連敗スタートの日本ハムが4連勝を飾って10年ぶり3度目の日本一を果たした。栗山英樹監督(55)は就任5年目で自身初の日本一。12年の初挑戦では阻まれた栄冠を手に入れ、8度胴上げされた。指揮官はスポニチ本紙に独占手記を寄せ、シリーズの激闘を熱くつづった。

 しびれたし、感動もした。でも、日本一の実感はない。ただ、日本シリーズという舞台で選手たちが輝いてくれた。そしてファンの方たちが喜んでくれた。このシリーズを見て、「野球って面白い」と感じてもらえたのなら、うれしい。

 2連敗でスタートしたこのシリーズ。苦しかったシーズン、クライマックスシリーズを勝ち抜き、がむしゃらに自分たちらしくいけると思ったら、予想以上にシリーズの重圧があった。緊張感でかみ合わず、ミスが出る。だから感情をむき出しにしようと思った、自分自身が。ここまで緊張したら、もう「リラックスしろ」なんて言葉は通用しない。単純に勝ちたい、うれしい、苦しい、悲しい、というものを出した方が選手たちが素直に野球に入れる。普段はしない万歳とか、リアクションを大きくしたのはそういう理由だった。

 大きかったのは、第3戦の黒田との対戦だ。彼を脅威に感じるのではなく、どうしたらこの対戦を生かせるかだった。連敗とか関係ない。「黒田さんと勝負できる」と、純粋に野球に入ってくれるんじゃないか。怖いとか考えている暇はない。どう攻略するか、ではなく、どうその存在を生かさせてもらうか。あの試合、点が取れなくて焦るのではなく、黒田と勝負することに集中してくれていた。打てなかったけど、あれでいい。どう黒田と向き合うかで、純粋に野球に入れた。間違いなく、その後の戦いにつながってくれた。

 こっちの勘違いかもしれない。でも、降板した回、翔平(大谷)に投げている途中で黒田に異変を感じたけど、その打席を投げきってくれた。翔平は「全球種を見せてもらった」と言っていたが、かつてダルビッシュがマエケン(現ドジャース・前田健)に全球種を見せたように、翔平自身が“受け取った”と思うことが大事。シリーズは時代を映すもので、今年のプロ野球を象徴するような2人の対戦で、この経験をどうプラスに変えていくのか。翔平が自分の進むべき道を感じたのなら大きな意味がある。

 もちろん、翔平だけではない。シリーズを通じて第4戦の岡であり、第5戦の西川であり。守備のミスや打てない悔しさを、次に倍返ししていく。必死に、ひたむきにやるんだという姿勢。それを野球の神様が認めてくれたんだと思うし、それでいい。前に進んだ、ということでは翔(中田)もそうだ。みんなが打てなくて苦しんだ中、やっぱり翔が打てば勝つし、打てないと簡単に負ける。4番としての存在感。そこを求めてきたという意味で、このシリーズは大きい。

 名将・三原脩さんは「虎は虎のまま使え」と言った。いろんな考えを持った野武士のような野球選手たちが、一つの考えにまとまるなんてあり得ない。ただ、一つの方向に行こうとは言える。連敗して焦る、悔しい、何とかしなければ、ではない。自分たちがやってきたことを信じて、一つ一つのプレーをまず全力でやってみよう。それが積み重なったら必ず勝っているから、と。2連敗を喫し、その原点に返ろうとして、あの第3戦を機に、自分たちの野球ができるようになった。

 みんなが前に進み、4年前の「忘れ物」をつかんでくれた。これで「北の国から 2016“伝説”完結」だ。でも、日本一は目標であるけど、目的ではない。ここがスタート。翔平だって、このオフの過ごし方が凄く重要になる。もっといいチーム、世界一のチームになるために。(北海道日本ハムファイターズ監督)

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