金融とテクノロジーを掛け合わせて新しい金融サービスの創出を目指すFinTechが、世界中で盛り上がっている。発信源である米国では、2014年に一気に投資額が跳ね上がった。それまでシリコンバレーが中心だったFinTech領域に、ウォール街の大手金融機関が本格的に参入したからだ。
2016年10月20日、東京ビッグサイトで開催中の「ITpro EXPO 2016」(開催期間は2016年10月19日~10月21日)では、グローバルで勢いを増すFinTechの潮流に、日本の官民がいかに対応すべきかを展望するパネル討論「日本版FinTechと産業創生の可能性」が開かれた。
パネリストとして登壇したのは、経済産業省 経済産業政策局で産業資金課長を務める福本拓也氏、日本マイクロソフト 執行役員 最高技術責任者の榊原彰氏、メタップス 代表取締役CEO(最高経営責任者)の佐藤航陽氏だ。モデレーターは、SBI大学院大学金融研究所 所長の藤田勉氏が務めた。
「今まで金融といえば銀行や証券、保険だった。しかし今は違う。“金融”そのものの働きは変わらないが、提供者は大きく様変わりしている。こうした新しい金融サービスを使う人たちの目線を政府として理解した上で法律や規制を考えなければ、見誤ってしまう」――。経産省の福本氏は、このように語る。
経産省は2015年秋に「FinTech研究会」をスタートさせ、11回に及ぶ会合を開いてきた。「FinTechという言葉が日本で流行りだしたのは1~2年前。当時は何が起きているのか分からなかったので、とにかく理解することから始めた」(福本氏)と振り返る。2016年夏には「FinTech検討会合」に格上げし、実際の政策に落とし込むため、議論を進めているという。「年内にはグローバルな視点から、FinTechに関するビジョンをまとめるつもりだ」と、福本氏は話す。
世界の動きはどうか。FinTechの領域で2強と目される米国と中国の状況を、日本マイクロソフトの榊原氏とメタップスの佐藤氏が紹介した。
榊原氏は、「世界のFinTechは米国を中心に動いている」としつつ、内実は不透明との見解を示す。例えば、米国でのFinTech投資の8割は決済と融資分野に集中しているとされるが、「これは明らかに実態に見合っていない」と断ずる。実際、FinTechの本丸として注目を集めていたP2P(ピア・ツー・ピア)レンディングやソーシャルレンディングのスタートアップ企業の多くは、2016年に入って苦戦が続いているという。
佐藤氏は、「日本も米国も中国も次世代の金融機関がどうあるべきかを議論している。私は、金の流れに関するビッグデータを握ったテクノロジー企業こそロールモデルと考えている」と語る。そのモデルに近いのが、中国のFinTechを引っ張るアリババグループだ。「(アリババグループのモバイルアプリである)アリペイを使えば、スマホ一つで自分の信用スコアが分かるし、資金を借りたり投資したりといったこともできる」と、佐藤氏は説明する。
国交省や農水省も総出で取り組むべき
こうした世界の潮流の中で、日本はいかなる形を目指すべきかについても議論が交わされた。モデレーターを務めるSBI大学院大学の藤田勉氏は、「金融機関自身が金融業界を変えるのは難しい。産業界のプレイヤーが適切に参入することが鍵を握る」とする。
経産省の福本氏も同調する。「垣根を越えることが欠かせない。あらゆる産業の背後に金融があるという大きな視点から発想すべきだろう」(福本氏)と話す。
日本マイクロソフトの榊原氏は、「ドイツが国を挙げて推進するインダストリー4.0は製造業の変革と思われがちだが、本質は産業構造全ての変革。製造、流通、金融の全てがデータでつながり、バリューチェーンを構成する世界だ」と語り、「FinTechはその核となる役割を果たす。その意味では、今は金融庁と経産省が主導しているが、国土交通省や農林水産省など総出で取り組むことが望ましい」(榊原氏)とする。
メタップスの佐藤氏は、「情報のインフラと金融のインフラを握れなければ、国としての成長は難しい。情報分野は既に海外に握られてしまった。金融分野は、官公庁、大手企業、スタートアップ企業がまとまった方針で動いていくべきだろう」とした。