2016年10月19日から21日まで東京ビッグサイトで開催している「ITpro EXPO 2016」の基調講演でトヨタ自動車とセコムの研究所所長らが登壇し、IoT(インターネット・オブ・シングス)への取り組みについて講演した。トヨタ自動車 未来創生センター統括の磯部利行常務理事とセコム常務執行役員IS研究所の小松崎常夫所長がそれぞれ講演した。

 最初に登壇した磯部常務理事は、「トヨタ自動車が考える『IoT工場』の将来」と題した講演で「トヨタがこだわっている生産方式とIoTの融合に取り組んでいる」と話した。トヨタ自動車の生産方式は二つ。一つは人の知恵を機械に取り込み、不良品を弾いて生産性向上を目指す「ニンベンの付いた自働化」。もう一つが余分な部品在庫を持たずに生産する「ジャスト・イン・タイム」だ。

トヨタ自動車 未来創生センター統括の磯部利行常務理事
トヨタ自動車 未来創生センター統括の磯部利行常務理事
(撮影:中村 宏、以下同じ)
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 磯部常務理事は「この二つの生産方式には現場に改善に意識を根付かせて人を育てるという重要な目的がある。現場の従業員が絶え間なく改善に参画し、育っていくことから『ものづくりは人づくり』と言っている」と話した。工場でのIoTの活用も、生産性向上と同じくらい従業員の成長を促す効果に期待しているという。

 トヨタ自動車がIoTで取り組む課題は「多様化した生産工程で従来と同様にPDCAを回すこと」(磯部常務理事)だ。生産工程が自動化、複雑化したことで、生産方法の改善に必要なデータ収集や分析が難しくなっているという。

 自動化している鉄板のプレス加工工程ではレーザーセンサーを使って不良品が出そうな鉄板を見つけて加工する前に取り除いたり、不良品発生の原因を分析するためのデータ収集に使ったりしている。「人が入れない場所、人が測れないデータを収集するのにIoTを使う」(磯部常務理事)。

 組み立て工程では、従業員の部品運搬作業にかかった時間を自動で測定している。従来は現場責任者がストップウオッチを使って測定していた作業時間を、「IoTでより細かく自動で収集し、現場の改善活動に注力できるようにしている」(磯部常務理事)。「日本企業が得意とする作業員主体の現場改善は揺るぎないもので、手放すわけには行かない。トヨタ生産方式にIoTを取り入れ、人の成長を促していく」(磯部常務理事)。

 続いて登壇したセコムの小松崎所長は、「セコムの未来戦略~先端技術をフル活用するサービスイノベーションとは」と題した講演で登壇した。現在、セコムの警備サービスは200 万件の契約があり、6000万のセンサーが常時情報を収集しているという。警備サービスの運営に約2万人の従業員が働いている。「200万件を24時間警備員を配置するには2000万人が必要だ。ITで2万人の力を1000倍に高めている」(小松崎所長)。

セコム常務執行役員IS研究所の小松崎常夫所長
セコム常務執行役員IS研究所の小松崎常夫所長
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 小松崎所長は「国力を単純化して考えると、物を作り世の中を発展させる”攻めの産業”と、警備や介護のように生活の安心・安全を作る”守りの産業”がある。攻めの産業に力を注ぐには、守りの産業の少ない人数で効率よく回す技術力が必要だ」と語った。IoTや人工知能(AI)、ドローンといった最先端技術を積極的に取り入れ、「技術者が工場の生産性向上に取り組むように、技術者が介護や警備の現場を同じ熱意で改善していくのが大切だ」(小松崎所長)という。

 セコムがIoTで注力する技術の一つが空間情報技術だ。「IoTの重要な点は、世界で起こっている小さな変化を詳細にデータにして収集することだ。収集したデータを使ってサービスを提供するには、詳細な位置情報が欠かせない」(小松崎所長)。地図情報や建築物のモデリングデータを収集し、外出先でも位置情報を使って警備や医療のサービスが受けられる技術を開発しているという。

 「技術革新には産官学の連携が必要だ。東京オリンピック開催があり、セコムでは『2020年とその先の未来へ』というキーワードを作った。オリンピックのような目標が設定されると、一気に力が集まって技術が発展する。色んな人と連携していきたい」(小松崎所長)。

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■変更履歴
当初掲載していた写真に誤りがありました。お詫びして訂正します。記事は修正済みです。 [2016/10/19 18:45]