PGAツアーはプレーオフ最終戦から1カ月弱の短い休みを挟んで、今週、2016-2017年シーズンの開幕戦、セーフウェイ・オープンが米カリフォルニア州のシルベラードCCで開催される。


●選手とコーチの短いオフシーズン


 今大会はタイガー・ウッズが急きょ出場を見送ったことがアメリカで大きなニュースとなった。そんな何かと話題の開幕戦だが、出場選手にトップランクの選手は少ない。

 出場する選手の中で世界ランク最上位のポール・ケーシーは12位。同じく出場するフィル・ミケルソンはアメリカで絶大な人気を誇るが現在15位だ。

フィル・ミケルソン
フィル・ミケルソン

 PGAツアーの上位選手はビッグトーナメントから逆算して出場する試合を選び、コンディション調整に余念がない。そのためこの時期に試合に出場しない選手たちは1年間の蓄積した疲労を落としつつ、新しいギアやスイングを試す調整期間を取る。シーズンが始まるとギアやスイングを大幅に変更することは難しくなるため、1年間戦える体勢をこの期間に整えるのだ。

 このつかの間の休み、ツアー選手のコーチたちは地元でレッスンを行うことが多い。アメリカではコースに所属しながら、ティーチング活動をするのが一般的だ。そのため、シーズン中は選手とともに各地を転戦し、オフになると所属のゴルフ場でじっくり時間を取ってアマチュアを指導するのである。昨シーズン、ダスティン・ジョンソン、ジミー・ウォーカーをメジャーチャンピオンに導いたブッチ・ハーモンのレッスンを受けるにはこの時期しかないという。ハーモンのレッスンを1年待ちで予約する人が後を絶たない状況だと、彼のアカデミーのスタッフが語っていた。


●プロのメソッドをアマチュアにも


 コーチたちは所属のゴルフ場に帰ると、自分が学び身につけたメソッドを、アマチュアにレッスンをしたり講演会をしたりして教える。日本でよく見かけるようなポールとネットで囲まれた練習場はあまりないため、アマチュアの多くはゴルフ場に行きレッスンを受けている。

 自分が教えているプロが活躍してコーチが有名になれば、ゴルフ場内に自分のアカデミーを開設する場合もある。コーチ本人の知名度があれば、そのメソッドを弟子のコーチたちが教えるという形で、アカデミーを運営しているのだ。

 有名コーチのレッスンだと1時間、約5万円ほどのレッスン料を設定している事が多い。ちなみに先に述べたハーモンのレッスンフィーは1時間約15万円だ。1日ラウンドレッスンなどで拘束をすると、数百万円というコーチもいる。

 ゴルフに限ったことではないが、技術を教わるということに対しての対価が日本の感覚とは大きく異なるのだ。


●誰に対してもフェアなレッスン


 私が以前、デーブ・ペルツが運営するアカデミーを視察した時のことだ。フロリダのとあるゴルフ場の中にあるアカデミーには、冬の時期は温暖な気候も相まってアメリカ北部の富裕層が長期の休暇でよく訪れる。その日もカナダ人の老夫婦がアカデミーにやってきて、3日間の短期合宿に申し込んでいた。1人30万円ほどのコースだったが、「ペルツのメソッドが受けられるなら、高くはないと思う」と言っていた。

 有名コーチが教えるメソッドもさることながら、アカデミーには弾道計測器やさまざまな練習器具、トレーニングルームまで設備面の充実も目を見張るものがあった。さらに練習場は常に芝から打つことができるため、実践的なレッスンも受けることができるようになってる。

 老夫婦はそもそもこのアカデミーの存在を知らなかったようだった。

「隣のホテルに泊まっていて、有名なアカデミーがあることを知ったからお願いをすることにしたんだ」

 実際にアカデミーで教えるのはペルツではなくその弟子たちだが、このレッスンが結構ハードなのだ。

 朝は8時からスタートし、若干の昼休憩ははさむものの夕方の5時までレッスンは続く。相手がプロ志望だろうが、ご隠居だろうが関係ない。

 初日は練習器具を使いながら、ひたすらにランニングアプローチを繰り返し、インパクトゾーンの正しい動きを徹底的に体に教え込む。2日目はスライドを使った座学もはさみながら、スイング全体の原理原則を頭に入れる。そして最終日はそれらを踏まえて、自分のスイングに落とし込む作業をしていく。

 これは参加者の年齢や腕前に限らずに行われる。

「ちょっと面白そうだから寄ってみた」程度だった老夫婦にはかなりキツそうな内容だった。

「最後はかなりばててしまったけど、とても勉強になったよ。これから練習をしたりラウンドをしたりする上で、どのように考えればいいかが分かったことが大きいね」

 3日目を終えた老夫婦のご主人は、こんな風に振り返っていた。


●大都会ニューヨークのレッスン事情


 これから寒さが増すニューヨークなどのアメリカ北部の都市では冬の時期に外でゴルフが行うことが難しいため、インドアでレッスンを行うティーチングプロが多い。レッスン施設がゴルフショップに併設され、フィッティングなどと一緒にレッスンを受けることができる施設もある。

 最近では解析機はもちろん、体のあちこちにセンサーを付けてスイングの動きを可視化する、モーションセンサーを取り入れている店舗もある。

 このように欧米のレッスンは、地方でも都会でも「感覚」より「理屈」を重視して教えられることが多い。特に大人がコーチからレッスンを受ける場合、理屈を理解することはとても重要だ。ジュニアのように多くの練習ができない大人は、自分の動きとその原因を理解することで上達が早くなる。

 大人になってからゴルフを始めた人はどうしても頭で考えてスイングをしてしまう。子供のころにできた「何も考えないこと」が非常に難しくなるため、考えることを絞ってシンプルにすることが必要だ、スイング理論を体系的に教えてくれる人を見つけることが上達の近道だ。


 ◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。シングルプレーヤー養成に特化したゴルフスイングコンサルタント。メジャータイトル21勝に貢献した世界NO・1コーチ、デビッド・レッドベター氏を日本へ2度招請し、レッスンメソッドを直接学ぶ。ゴルフ先進国アメリカにて米PGAツアー選手を指導する50人以上のゴルフインストラクターから心技体における最新理論を学び研究活動を行っている。早大スポーツ学術院で最新科学機器を用いた共同研究も。監修した書籍「ゴルフのきほん」(西東社)は3万部のロングセラー。オフィシャルブログ  http://hiroichiro.com/blog/


(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ゴルフスイングコンサルタント吉田洋一郎の日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)