写真●ジェイティービーの田川博己代表取締役会長
写真●ジェイティービーの田川博己代表取締役会長
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 「2015年の日本の観光競争力は、世界で9位とまだまだ低い。順位を上げるポイントは、口承・無形文化遺産にある。自然や建造物に付随する伝統的習慣などの生活文化体験が、日本の観光の魅力なのだ」。

 ジェイティービー(JTB)の田川博己代表取締役会長(写真)は2016年7月21日、東京ビッグサイトで開催されている「インバウンド・ジャパン 2016」で講演し、日本が観光立国として成功するための秘訣を解説した。

 田川氏はまず、観光産業の状況を解説。訪日外国人の数は、2003年には521万人しかいなかった。2013年には訪日外国人が1000万人を突破し、2014年は1341万人、2015年は1973万人と順調に増えた。同社は2016年の訪日外国人数を2350万人と予想。2020年には4000万人を、2030年には6000万人を見込む。

 旅行・観光業の裾野は広い。2015年の旅行・観光業の経済効果は、世界のGDPの9.8%(7.2兆ドル)を占める。世界で2億8358万人の雇用を生んでおり、雇用全体の9.5%を占めている。日本においても、経済効果は48.8兆円でGDPの5.2%、雇用効果は419万人で雇用全体の6.5%を占める。

 世界から見ると、日本は現在、「企業の顧客対応」「テロ発生率の低さ」「鉄道インフラの質」の三つの指標でナンバーワンの評価を得ている。しかし、これまで以上に訪日観光客を増やすには、新しい指標として「和紙」や「和食」などの世界無形文化遺産の登録数が重要だと田川氏は力説する。

 日本の無形文化遺産の登録数は現在22件で、中国に次ぐ2位。「日本の遺産には、千年以上独自に育ち伝承された、生活文化の象徴と呼べるものが多い。こうした生活文化を体験することが日本観光の魅力だ」(田川氏)。

2020年の4000万人に向けて交通インフラを整備せよ

画面●観光立国への目標値(2020年時点と2030年時点)
画面●観光立国への目標値(2020年時点と2030年時点)
(出所:ジェイティービー)
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 日本が2020年時点の目標として掲げる4000万人は、2016年現在からみてほぼ倍増に当たり、「かなり実現が厳しい数字」(田川氏)である(画面)。「交通インフラが整っていないので、これを改善しなければ達成できない」(田川氏)。

 LCC(格安航空会社)の割合がまだ10数%しかないことが日本の問題だと田川氏は指摘する。世界では、旅行と言えばLCCかチャーター便がメインであり、定期便はビジネス用途にしか使わない。「日本は観光地のハワイに定期便が飛んでいる珍しい国」(田川氏)だ。

 訪日外国人を増やすには、LCCやチャーター便を含めて、東京と大阪の航空便のキャパシティを増やすことが大切になるという。地方空港というのは何度も日本を訪れているリピーターが利用する空港なのであって、初めて日本にくる観光客は、まずは東京か大阪に降り立つからである。

 欧州には日本のようなパッケージ旅行がないので、欧州からアジアに旅行する際には、チャーター便で飛んでくる。こうした流れを、日本でも作っていかなければならないと田川氏は説く。「関西空港の民営化によって、少しは改善されてきた」(田川氏)。

 客船によるクルーズの扱いも改善が必要であるという。船に乗ってくる人はお金持ちが多いので、貨物船と同じ港を利用するのではなく、客船用の港を利用しないとだめだとした。

地方ではWi-Fiと夜遊び環境の整備が必要

 2020年に4000万人を達成するには、交通インフラ以外の部分でも改善が必要になる。

 ハードウエア面では特に、無線LAN(Wi-Fi)の整備が必須。「地方都市だと、Wi-Fiが使えないところがたくさんある。そうした場所では、国際会議を開催できない」(田川氏)。会議資料の配布なども、現在ではネットワークを介して行うからである。

 外国人向けに表記を多言語化することについては、外国に習い、まずはミュージアムのパンフレットなどの多言語化を優先するべきと主張。「そもそも海外に旅行に来ている観光客からすれば、街中の表記を多言語化する必要はない」と田川氏は言う。

 ソフトウエア面では、人材育成などに注力する必要がある。また、夜間の娯楽を提供することが、特に地方にとっては大切になる。「せっかく旅行に来ているのに、夜8時にホテルに帰ってテレビを見てるだけというのはつまらない」(田川氏)。

 大きな視野として、観光地のブランドを確立すべきと田川氏は強調。「日本は温泉をベースに観光を整備してきたので、金太郎飴のように似通っている」(田川氏)からだ。個々の自治体が打ち立てる単年度のプロモーションは効果が限定的で旅行者の需要と合ってないので、「旅行会社と組んで継続的に投資することが大切」(田川氏)としている。