マレーシアの治安が気にかかる。理由は三つある。


一つは、インドネシアの首都ジャカルタで起こったテロである。今年1月にジャカルタの中心部でテロが起こり30人以上の死傷者が出た。テロを実行したのは「イスラム国」に滞在した経験のあるインドネシア人であった。インドネシアから、かなりの数の急進化したイスラム教徒が「イスラム国」に渡ったものと推測される。そのうちの帰国したものがテロを実行した。


言うまでもなく、インドネシアは人口で見ると世界最大のイスラム国家である。そしてインドネシアに次いで東南アジアでイスラム教徒が多いのは、マレーシアである。マレーシアからも多くの急進派が「イスラム国」にはせ参じているだろう。そして恐らくインドネシア人と同じ部隊に配属されているのではないだろうか。というのは、「イスラム国」は使用言語ごとに部隊を構成していると伝えられるからである。


たとえば、フランス出身者とベルギー出身者は同じフランス語圏の出身として一つの部隊にまとめられている。インドネシアの共通語のバハサ・インドネシアとマレーシアの共通語のマレー語は基本的には同じ言葉である。


もし、そうであるならば、同じ部隊からインドネシアに戻ってテロを実行した人たちがいるのであるならば、マレーシアに関しても同じようなテロが計画される可能性は高くないだろうか。これが、マレーシアでのテロを懸念する第一の理由である。


第二の理由は、マレーシアの空港の警備の甘さである。


6月の初めにイギリスのBBCなど国際メディアが、首都クアラルンプールの空港職員15人が解雇されたと一斉に報じた。犯罪組織と共謀してコンピューター・システムを止め、データベースを使えなくして入国検査を骨抜きにし、多数の外国人の非合法な入国を許してきたというのである。長年にわたって行われていたとも報じられている。空港の治安管理の第一は、空港職員の身元の確認である。その基本が守られていない。


昨年10月末、エジプトのシナイ半島の保養地シャルムエルシェイクの空港を飛び立ったロシア機が墜落する事件があった。空港で飛行機に爆発物が積み込まれたとの疑いがもたれている。空港の職員に「イスラム国」を支持する者がおり、テロに手を貸したとの説が有力だと考えらえられている。この説が正しければ、職員の「身体検査」の甘さが招いたテロと言える。シナイ半島は、そもそもイスラム過激派の影響力が強い地域であり、その中には「イスラム国」への忠誠を表明している組織もある。空港職員のテロ関与説に説得力を与える背景である。


>>次回につづく


※『まなぶ』2016年年7月号、58~59ページに掲載されたものです。