『水道橋博士のメルマ旬報』過去の傑作選シリーズ マッハスピード豪速球・ガン太~見知らぬホームレスを家に泊めた話~

芸人・水道橋博士が編集長を務める、たぶん日本最大のメールマガジン『水道橋博士のメルマ旬報』。
岡村靖幸、酒井若菜、サンボマスター山口隆...など、豪華48執筆陣の一人に、芸人・マッハスピード豪速球 ガン太さんという方がいます。
世の中的には、まだ決して知名度高いとは言い切れない芸人さんですが、このガン太さんが『水道橋博士のメルマ旬報』Vol86に寄稿された「ある日、見知らぬホームレスを自宅に泊めた話」が出色の出来だったので、早速、無料公開させてください。
そして、このガン太さんと相方の坂巻さんの二人がコンビを組む芸人・マッハスピード豪速球。彼らの単独ライブ「マッハ3」が2016年7月14日(木)東京・伝承ホールにて行われるのですが、どうもそのライブの設定が入場料-1000円!つまり「来ると1000円もらえる」という、どうかしている設定で敢行するらしいので、是非、押しかけてみてください。
マッハスピード豪速球『マッハ3』 http://ameblo.jp/mspg/entry-12145901119.html

それでは、以下、『水道橋博士のメルマ旬報』Vol86 (2016年5月25日発行)より一部抜粋です。

......・・・..................・・・......
どうも!『マッハスピード豪速球、ガン太』の【ハカセー・ドライバー】です!!

先日の5月10日ボクのTwitterのDM(ダイレクトメッセージ)に突然見知らぬホームレス(27)と名乗る物からメッセージが来ました。

内容はザックリ言うと
「家に泊めてくれませんか?」という物・・。
実に気持ちが悪いです・・「急に家に泊めてくれませんか?」ってテレビ東京の番組じゃないんだから・・いやあれはテレビだから成り立ってるんだよ・・ホームレスが急に泊めて下さいって・・ん? でもホームレスが家に泊めてくれは逆にこっちの方が当たり前のことなのか・・? んー良く分からんがとにかく気持ちが悪い・・。

しかし、そんな警戒心丸出しの気持ちとは裏腹にボクは数分後には「いいですよ!」と返事を返していました。

理由は単純ですこの【ハカセー・ドライバー】のネタになるかもしれないと思ったのです。
〔メルマ旬報〕で【ハカセー・ドライバー】の執筆と言う大お仕事を『水道橋博士』から奇跡的に頂いて約3年、月2本の原稿を書き続けると言うお仕事は実にやり甲斐があると同時にとてつもない苦労が伴います。
ボクにとっての〔メルマ旬報〕での苦労の1つ、と言うか大半を占めているのが原稿の題材になるネタ探しです。
毎回何とか自分の活動や出来事などからお金をとっても恥ずかしくない(自己判断)芸人でないと体験できないであろう事柄を書き綴っていますが、最近ネタが尽きて来て書くことが無いという書き手としては一番恐ろしい状況が多々あり藁にもすがる思い、いやホームレスにもすがる思いで返信をしたのです。

にしてもホームレスを家に泊めるか?と思うでしょうが、実はボクはホームレスにはあまり抵抗がございません・・何故ならこの〔メルマ旬報〕でもその事について書いていたことがありご存知のお方もいらっしゃると思いますが、ボクも約2年前ホームレスと言う状況に追い込まれていた時期があったのです。なので若きホームレスの気持ちが痛いほどわかります! 実際このホームレス君もボクがホームレス時代に[THE HARD WORKERS]で書いた『絶対に役に立つ人の家に泊めてもらう方法』という記事を読んでDMを送ってきたという事らしいです。↓↓
http://sp.ch.nicovideo.jp/fabloid/blomaga/ar683881

もう1つホームレスに抵抗が無い理由があります。
それは『ホームレス小谷』という方の存在です。
『ホームレス小谷さん』とは、『キングコング、西野亮廣さん』が自らの自宅を開放し、全く知らない人を招き入れルームシェアをしたら面白いのではないかとメンバーをTwitterで募集し、集まった中の1人で『西野さん』とルームシェアをしていた方です。
『小谷さん』は『西野さん』とルームシェアを始めるも、2カ月連続で家賃が払えずに速攻西野さん宅を追い出され、ホームレスになるのですが、その後『西野さん』やその周りの方の助言を聞き続け、全てを行動に移した結果、ホームレスなのに10kg近く体重は増え、ホームレスを切っ掛けに嫁まで貰い、ホームレスで築いた人脈のおかげでタダで結婚式まで開いてしまったという何とも画期的なスーパーホームレスなのです。
ボクはこの『ホームレス小谷さん』の【笑うホームレス】という本を読んで『小谷さん』の行動力、『西野さん』の頭脳に感銘を受けていたのでホームレスに親近感があったのでしょう。

『西野さん』と『小谷さん』の事を頭の中で巡らせながらホームレス君とDMでのやり取りは続き、この2日後の12日にホームレス君がボクの家に泊まる約束をしました。
やり取りを続けると何とこのホームレス君が元芸人だと言う事が発覚しました!
これは完全に『小谷(元芸人)』『西野(芸人)』の構図と一緒じゃないか!!??

その瞬間頭の中で今回の【ハカセー・ドライバー】の記事の題名が[西野さんごっこ]に決まりました!ボクは『西野さん』になるのです!!

DMでのやり取りは続きます。ホームレス君の素性を知りたいので、ブログは書いているのか?と聞いてみると書いていませんとの事です。

これはいけません!
『西野さん』がまず『小谷さん』にさせた事はとにかくSNSでホームレス生活の模様をアップする事だったのです!【笑うホームレス】に書いてありました!!
この時点で彼はホームレスになって12日目、その日々の状況をブログにしたためていないだなんてなんて勿体ないんだ!!
ボクは心を西野にして彼にメッセージを送りました。

「勿体ない。せっかくホームレスなんだからホームレスになった経緯とか気持ちとか全部blogに書いておいた方がいいよ。ホームレスになって今の俺へのDMに至るまでを今日中にblog作って書いたら明後日家に泊まっていいって事にしよう。」

「はい分かりました!」
とすぐに返事が来ました。
・・・いいぜー・・ボクの西野さんっぷり彼の小谷さんっぷりが完璧です・・ボクはウットリとしています・・その日の夜中にはブログは完成し家に泊まる再契約が交わされました。

ホームレス君が家に泊まる1日前バイトまでの時間せっかくなので綺麗な部屋に泊めてあげたいと言う事で部屋の掃除をします。
金を盗まれるのだけは恐いので酉の市で購入した縁起物の熊手に刺さっている数万円を隠そうと思った所で、前に『水道橋博士』から聞いた話を思い出してボクの手が止まります・・。

その話とは『水道橋博士』が秘書の『スズキさん』と出会った時の話です。『スズキ秘書』は初めは芸人志望で『博士』の前に「弟子にして下さい」と突然現れました。
その時の『博士』のとった行動が非常にイカれてらっしゃっていて、『博士』は『スズキ秘書』をそのまま家に連れて行き、通帳からハンコから現金から貴重品と言う貴重品のありかを全て教え、「それじゃ最初の君の仕事は部屋を綺麗にしておくことだから片しておいて」と言い『スズキ秘書』を残し自分は部屋を長時間抜けたという話です・・もう一度言いますが初日の初対面での話です!普通に考えたら完全に全てを盗まれます。この話はボクの中では伝説として残っているのですが、その伝説がボクの頭によぎったのです。

・・・や、やってみたい・・ボクもあの伝説やってみたい・・超カッコイイ・・やってみたい・・良くそんなに人を信用できるな!と語り継がれたい・・イカれているなと言われたい・・いや何なら盗まれても面白い・・。

ボクは手に持ったお金をもう一度熊手に指し直し静かに[博士ごっこ]を計画したのでした・・。

ホームレス君が泊まりに来る当日12日になりました。この日は朝から単独ライブ【マッハ3~来たら1000円貰えるライブ~】のミーティングやら何やらバタバタで最寄り駅に着いたのが21時頃です・・あー疲れた・・。

ここからボクの[西野さんごっこ]に誤算が次々と生まれてくるのです・・。

21時か・・思ってたより遅くなっちゃったな・・ホームレス君に電話しないとなー・・疲れたなー・・ホームレスがうちに泊まるのかー・・疲れたなー・・初対面か・・何話そう・・疲れたなー・・・・・・めんどくさいな・・。

まず最初の誤算がこれ"めんどくさい"でした。
自分でも意外でした昨日まであんなにもワクワクしていたのにこんなにもめんどくさいだなんて・・しかしこの誤算の正体は何となく分かります。非日常の出来事でテンションが上がり忘れていましたが、ボクは人見知りなのです・・。
もっと詳しく言うと、人見知りではありますが人見知りでは無い風に振る舞う方法は分かっておりまして、人見知りじゃないバージョンも出来ますが、それをするのには多少気を入れなければならないし力を使うので、この疲れている状態でそれがめんどくさくなってしまったのです。
まーでもそんなにボクが気を使う事は無いか・・泊めてもらうんだ、向こうが気を使って沢山話すはず・・もっと気軽にいこう、人見知りモードでいいや。

電話で連絡をして待ち合わせ場所を指定し向かうと、写真は確認してあったのですぐにホームレス君を確認・・肩くらいのロン毛でギターを持ってメガネをかけています。
良かった、思ったより汚く無いな・・目が合いファーストコンタクトが始まります。

「おーお待たせです!ホームレスだね?」
「あ、初めまして・・ホームレスです・・」
・・・
「飯食った?」
「食べてないです!・・」
「サイゼリアでいい?ご馳走するよ」
「はい!何でもいいです・・」
「行こうか」
「・・・・」
「・・・・」

何と・・向こうも人見知りか!?次の誤算です!これは参りました・・人見知りじゃないバージョンをするのにはスタートが肝心なのです。ここから戻すのは難しい・・。
まあいいか酒でも飲みかわし徐々に距離を縮めよう・・サイゼリア到着です。

「好きなの食べていいよ。」
「ありがとうございます。ハンバーグとライスを・・」
「お酒は?何でもいいよ」
「僕、酒飲めないんです」
「ん、ん、オッケオッケ、飲めないんだね」
第三の誤算です!酒が飲めないらしいです!ホームレスと言えばお酒という固定概念が良くありませんでした。
もう良い、頑張って色々話を聞こう!

「どうしてホームレスに何てなったんだい?」
「バイトを辞めてしまってお金が無くなったんです」
「そうかー・・。他にバイトすれば良かったじゃん?」
「僕引きこもりだったんです。そう言うのもあってバイトを辞めて、人とのコミュニケーションも苦手で、それで家を捨てたら引きこもりでもなくて人とも喋る機会が増えると思って家を捨てたんです」
おお・・面白い。
「へー!確かにそれは一石二鳥だし最高だね!良いじゃん理にかなってるよ!今までどんなところ泊まったの?」
「あー基本的にネットカフェですねー」
「ああ・・そうなんだ・・今まで一番嫌だった寝泊り経験とかあるの?」
「ネットカフェで隣の部屋の女の人が屁とかゲップいっぱいするんですよ!それ一番嫌でしたね!」
「へー・・ネットカフェねー・・」
「でも今のネットカフェメッチャ快適なんすよ!」
「あーそう、ネットカフェか・・」
「家よりいいですよ!!お金あったらネットカフェに住みたいですー!」
「ふーん・・お金あったらネットカフェ住むの?」
「はい住みたいっすねー」
「それ家(住処)じゃん」
「はい、家欲しいっすねー」
「・・・あそう」
なんだよ・・引きこもりとか関係ないじゃん、結局、金無いから家出ただけじゃん・・。

ホームレス君の名前は『鈴木しょうと』と言うらしく『ショート』と呼んでくださいとの事、少し話すとさっき人見知りと感じたのは思い過ごしだったのか緊張していただけだったのか慣れて来たのか口調が段々普段使いになるのが分かります。
慣れたきた口調は大学生ノリと言うか人を敬っていないトーンと言いますか、この言葉はあまり好きじゃないですけど、ゆとり世代と言いますか、何とも説明できませんが何かナメてる感じです。
・・んーよろしくない・・この感じボクあまり好きじゃないタイプです・・。
バイト経験の豊富なボクは色々な人種とかかわる事が多く、この感じの子は今まで何回か経験がありますが、苦手な部類なのです。と身構えるのはまだ早い、もうちょっと話を聞いてみましょう・・。

「でもお金を稼がないとね?本当のコジキになっちゃうじゃん、金稼ぎは考えてるの?」
「いやー考えてないんすよー、楽して稼ぎたいんですけどねー」
「あぁ・・まあ皆楽して稼ぎたいよねー・・今のネットカフェとか泊まる金はどうしてるの?」
「親に借りてるんすよー、昨日も親に借りましたー」
「は?親に金借りてるの?」
「はい、あと元カノにも金5万借りててー、ていうか全部blogに書いてますよ(笑)。親も元カノの借金もー」
「あ?・・返さないの?」
「まあ、その金は・・(ゴニョゴニョ)」
「それは返せよ、金返してからじゃないと何かホームレスしてても気持ちが悪いでしょ?清々しく無いでしょ?」
「楽しいですよ!ホームレス!」
「んーそう言う事じゃなくてホームレスで食ってくとなると人とのつながりが大事で、むしろそれしか武器が無いわけで、それがblogに彼女に5万借金あるだの親から金借りてるだの書いてあったら、誰も君と繋がる気にならないでしょう、blog読む人とかはホームレスなのに逞しいって物語に惹かれるんじゃないかな? 何、親から金借りてネカフェ泊まるってつまらない物語」
「あーそうですよねー楽して稼ぎたいですねー・・」
「?・・話聞いてた?・・じゃあまずそのギターでストリートミュージシャンでも何でもいいから稼いで彼女に5万返すって言う目的立てて、それをblogに書き綴れば?」
「いやーガン太さん、今ストリートミュージシャンなんて全く稼げないんすよー、世間って今、自分へ直で帰ってくる有益な情報しか求めて無いんですよーだから音楽を道でやっててもそれって自分への直の有益情報じゃないんで、金払わないし立ち止まらないんですよー」
「ああ、ストリートミュージシャンで稼げない事なんて分かってるけど何かやらないと誰も注目しないしダメだろう・・ミュージシャンで成功したいんでしょ?」
「いやー違いますよ!別にミュージシャンになりたいとかじゃないですー」
「え?違うの?・・君は何?どうなっていきたいの?どれで稼いで行きたいの?」
「いやー別に何になりたいとか何にもないんですよ!ミュージシャンでも役者でも芸人でも何でもいいんで楽して稼ぎたいんです!!」
「・・・」

おれコイツ、
キラ―――――――――イイイイイイイ!!!!!!!

今回最大の[西野さんごっこ]の誤算です!泊まりに来たホームレスが嫌いなタイプでした!
口だけ達者で実が伴ってないで知識だけあって、失敗を恐れ、行動に移さず、人には迷惑をかけ、何に対してもリスペクトが感じられない人! キラーイ! キライ!! キライ嫌いキライ!!!
そしてもう1つの誤算、ボクは『西野さん』の様に心が広くないし、受け止めるキャパも無い!

「ガン太さんってお笑いで稼いでるんですか?」
「・・稼げてないよ!」
「じゃー、一緒ですね」
「・・そうだね・・」
「ボクがガン太さんの稼ぐ方法を考えますよー、で、ガン太さんはボクの稼ぐ方法を考えて下さい。自分の事って分からないじゃないですかー」
「・・チェ・・ああ、考えてくれよ、オレの稼ぐ方法・・」
「ガン太さんオフィス北野ですよね?ボク【東京ポッド許可局】結構聞くんすよ。」
「お?そうなんだ!」
(【東京ポッド許可局】とはオフィス北野のボクの最も近しい直属の先輩である『マキタスポーツ』『サンキュータツオ』『プチ鹿島』のお三方様のラジオ番組の名前です)
「あれ結構面白いですよねー」
「結構じゃねえ、一番面白いよ!」
「ガン太さんってどう稼いで行きたいんですか?芸人で稼いでいきたいですか?」
「ああ、芸人で稼いでいきたいよ」
「いや今肩書き問題って言うのがあって、芸人っていう肩書はありきたりで、稼ぐの難しいらしいんですよー」
「うん」
「だから、ガン太さんも芸人って肩書きを捨てた方がいいかもしれませんねー」
「ああ」
「これ【東京ポッド許可局】で『マキタスポーツさん』が言ってましたー」
「ああ・・うん」
「賞レースってどこまで行きました?」
「【キングオブコント】準決勝行った」
「すごいじゃないですかー!コント師なんですね、ネタ見た事無いから知らなかったですー」
「あ?ああ」
「ガン太さんネタロマンって持ってますか?ネタでのし上がって行きたいとか?」
「まあ1つの武器としては大事にしていきたいね、コント好きだから」
「あー今の時代ってネタロマンは早く捨てた方がいいんですよー、ネタって金にならないのに何で若手はネタにしがみ付くんだって、ネタロマンは早く捨てるべきだって」
「なにで言ってたの?」
「【東京ポッド許可局】で言ってました!!」
「・・・チェ」


いやこちとら全部直で聞いてるわ!!!!!電波通さずマキタさんタツオさんの口から出た「ネタロマンは金になんねえ」「芸人て肩書きは難しい」の振動をこの鼓膜で全部聞いたわ!!そしてラジオでも聞いたわ!!

ボケがー・・コイツ腹立つなー・・。

「・・・」
ボクは黙りました。

叱ろうとも思いましたが叱る道理が見当たりません。芸人の後輩でも無く目指している物が無い彼に対する叱る道理が無いのです・・何物でも無い彼からしたら確かにボクはやりたい事で食えていない彼とあまり変わらない同類の人間だったのです・・。

最後の誤算、ボクは『西野さん』の様に成功例が無く金も無いので、ボクを敬いボクの言う事を聞く道理が向こうに無くボクも彼を救う道理が無かった。

これを悟った瞬間ボクの心の『西野さん』は静かに消えていき[西野さんごっこ]は終了しボクの心は真っ暗になり彼への興味が無くなり目が碁石みたいになりました。
これはわずかサイゼリア到着から20分の出来事です・・。

ああ・・嫌だなー今日コイツうち泊まるのかー・・つまらないなーどうしよう・・これ以上何話すんだよ・・。

「うまいっす!ハンバーグうまいっすー!」

ああ・・ここも奢らなきゃいけないんだったっけ・・イヤだなーこいつの為にお金払いたくないなー。

「いやーうまい!ガン太さん写メ取っていいっすか?」

あー憎たらしい・・。

「撮りますよ!あれ?何でそんなに真顔何ですか?笑って下さいよーあれ?トイレですか?」

ボクは立ち上がり電話をしに行きました。
後輩の『シェパード太郎』を「ホームレスが居るからおいで」と呼び出したのです。
「いいネタになるだろ?」などとうまい事を言って誘い出しましたが、彼と二人きりで一晩を共にするのが嫌になっただけです。

20分程でシェパードは到着し3人で話します。と言ってもボクはほとんどシェパードとしか話しませんが・・。

シェパードが一通りボクがさっき彼に聞いたような質問をしていきます。
シェパードの目もどんどん碁石になって行くのが分かります。

サイゼリアを出てボクの家に行き軽く飲み直しますが、その時になるともうボクは全く話さなくなりシェパードが彼と話し込んでます・・無の時間が流れます・・。

ボソボソとシェパードと彼が喋っていると何かのきっかけでついにシェパードが彼に説教し始めました。
ボクはもう心を閉ざしてしまっていたので何だか内容が入ってきませんでしたが、「お前はダメだ人への感謝が無い!」だのなんだの言ってた気がしますが、ボクは壁の薄いアパートでそんなに大声で説教しないで欲しいと思うばかりでした。
するとホームレス君が
「すっ・・すっ・・ひっ・・すっすっ・・ズッ・・すっすっ・・」
とすすり泣き始めました。
狭い部屋に響き渡るホームレスがすすり泣く声・・。

ボクはウソつけ・・と思いました。

が、空気も悪かったので場を和ますために久々に口を開き彼に質問をしました。

「ショート君、ネットカフェって一番安いとこでいくら位なの?」
「すっ・・すっ・・8時間パックで1200円くらいっす」
「結構安いんだね。まあでも良いもんだろ?久々の家ってのも?もしこの家をネットカフェの感覚で1日レンタルさせてあげるって言ったら君はいくら払う?」
「すっ・・すっ・・ひっ・・すっすっ・・500円です・・ズッ・・」
「ごっごひゃくえん!?・・・」

マッジで何だよコイツ!!クソッタレ!!

ボクはその瞬間リュックを背負い、熊手を指さし彼に言いました。
「おい!あそこに金がある絶対にとるなよ!絶対にとるなよ!」
「取らないです・・取らないです・・」
「いや、お前は何だか取りそうだ!取るなよな!取ったらすぐに分かるからな!いくらあるかオレは分かってるんだぞ!取るなよ!」
「取らないですって・・」
「いやお前は何か取る顔してんだよ!」
「シェパードちょっと来てくれ」(一瞬外に移動)
「ガン太さんリュック背負ってどうしたんですか?」
「うん、シェパード、それじゃ君の仕事は部屋を守る事だから、くれぐれも彼から目を離さないように!」

と言い残しボクは2人を置いて部屋を後にしました・・。
全然博士のやつと違います・・あんなに「取るなよ」と念を押して更に番犬まで置いて出て行くなんて、伝説でも何でもないです・・。

モヤモヤとした気持ちのまま夜道を歩き、今回の反省を浮かべました。

今回の教訓![ごっこ]じゃ何も生まれねえ。

ボクは1200円払ってネットカフェに泊まりました。
・・・うん・・確かにボクん家よりも居心地いいや・・。

終わり。


関連リンク
『水道橋博士のメルマ旬報』
https://bookstand.webdoku.jp/melma_box/page.php?k=s_hakase

« 前のページ | 次のページ »

BOOK STANDプレミアム