無報酬 東大野球部コーチに元中日首位打者「感覚的な教え方避けている」

[ 2011年2月21日 08:28 ]

 “赤門旋風”の再来なるか―。東京六大学野球リーグで26季続けて最下位に沈む東大が、プロ野球中日の主軸打者として活躍した谷沢健一氏(63)をコーチに招いて強化を図っている。東大が一定期間、元プロ選手による指導を受けるのは初めて。谷沢氏は早大出身で、母校以外の指導者が就くのも異例だ。

 入試制度の変化などで、現在は東大以外の大学には強豪高校出身者がずらりと並び、一般入部に頼る東大と戦力の差は開く一方だ。1981年春季リーグで早大、慶大から勝ち点を挙げて4位と躍進し“赤門旋風”と呼ばれたが、近年は勝ち点はおろか1勝も難しい。打力の弱さは深刻で、チーム打率は12季連続で1割台。昨年は春秋のリーグ戦計21試合のうち12試合で零敗を喫した。

 知人を通じ、昨秋にコーチ就任の要請を受けた谷沢氏は「大学野球を盛り上げるチャンスと思った」と即決し、昨年11月に指導を開始した。フォームから細かく説明し、動画も見せてスイングの欠点を指摘する。「みんな驚くほど素直で明るい。一つ教えると全員で共有するし、教えがいがある」と感心する。

 セ・リーグで2度の首位打者に輝いた実績を持つが、相手が東大生だけに「納得しないとやらないから筋道立てて理解させることを心掛け、感覚的な教え方だけは避けている」と苦笑い。御手洗健治監督は「僕は投手出身だから打撃を見てもらえるのはすごく助かる。基礎からやってくれるし」と感謝する。

 谷沢氏は無報酬。時間がある限り練習に足を運ぶ熱心な姿は選手たちに好評だ。岩崎脩平主将は「平日もずっと来てくださるし、試合に出ない選手を含め、個々に合わせたアドバイスをくれるのがうれしい」と喜ぶ。

 就任から約3カ月経過し、選手たちは上達している。リーグの開幕戦で6位校は前季優勝校と当たることが慣例のため、今春は早大が相手。谷沢氏は「もちろん力は数段違うが、何とか形にしたい」。好意的に送り出してくれた母校打倒を口にして笑った。

 東大は前季、早大の斎藤佑樹投手を攻略し、リーグの連敗を35で止める金星を挙げた。東京六大学連盟の内藤雅之事務局長は「東大が勝つと盛り上がる。早大の斎藤君がいなくなるわけだし、東大の頑張りでリーグを活性化し、優勝争いをかき回す存在になってほしい」と期待を込める。

 東大からプロ入りした選手はソフトバンク取締役の小林至氏ら過去5人。中日編成担当の井手峻氏は外野手で活躍したが、全員が投手としての入団だ。谷沢氏は「可能性のある子は何人かいる。日に日に成長しているから楽しみ」と、東大史上初となる野手としてのプロ育成も夢見ている。

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2011年2月21日のニュース