僕がプログラミングを初めたのは中学二年生のころだ。NHKで放送されていたアニメ、電脳コイルを見たのがきっかけである。作中に登場する「電脳メガネ」に、僕はすっかり心を奪われた。
2011-01-20 22:40:35どうして電脳メガネは実在しないのだ。あと五十年ほど生まれるのが遅かったらよかったのに! そんなことばかり考えていた。電脳世界への憧れから、僕はプログラミングに興味を持つようになった。C言語の入門書を買ってきて基本を覚えていき、やがてそこそこの出来だと思えるものを作るようになった。
2011-01-20 22:41:29自分の思い通りにコンピュータを動かせることのなんと楽しいことか。コンピュータの前に座る自分に不可能はないように感じられた。もしかしたら、電脳コイルの世界だって作れてしまうのではないか。いや、できるはずだ。やってやる。
2011-01-20 22:42:03しかし、高専二年生の秋に僕の自信は打ち砕かれることになる。ちょっとしたきっかけで、僕は競技プログラミングの大会に出場した。優勝するつもりだった。
2011-01-20 22:43:35プログラミングによってもたらされる全能感に浸かりきっていた僕は、すっかり自分の実力を見誤っていた。プログラミングで負けるわけがないと、頑なに信じていた。自分の書いたコードを評価されたこともないくせに、プライドだけは一人前だった。
2011-01-20 22:44:20しかし、大会の結果は惨敗。予選こそ通過したものの、本選では手も足もでなかった。出題された問題は、どれも僕にとっては難しすぎるものだった。さっぱり分からなかった。その時僕は初めて、自分が大したことない奴だということを知った。
2011-01-20 22:44:39優勝は某有名進学校のチームだった。なんだか難しそうな言葉を使って会話する彼らを見て、かけられる賞賛の言葉をなんともなさそうに受け流す彼らを見て、僕は強烈な劣等感に襲われた。
2011-01-20 23:05:22プログラミングの技術云々ではなく、そもそもの頭の出来が違うのだ。彼らはいわゆる天才というやつで、普通の人間が彼らと勝負しようという方が間違っているのだ。
2011-01-20 23:03:03そんな風に、彼らを自分と遠く離れた超越的人種として、納得しようと努めた。壇上で満場の拍手を受ける彼らと自分との間には、どうしようもないくらい深く広い溝があるようだった。
2011-01-20 22:46:10かくして僕は自分には何の特別な能力もないことを知った。何もおかしなことはない。僕は一介の高校生である。負けるのは当たり前だ。何度も自分に言い聞かせた。
2011-01-20 22:46:23それでも、プログラミングに費やしてきた日々が、急にくだらないものに思えてきた。電脳コイルに出てくるようなカッチョイイ未来の世界は、彼らが作ってくれるさ。普通の人間である僕は、僕より優秀な大勢の人たちが作る未来を待てばいい。
2011-01-20 22:46:44「僕のコードで世界を作り変える」という言葉はすっかり色あせていた。こんなものは調子に乗った馬鹿の妄言だ。身の丈に合わない理想は、捨ててしまおう。そう思った。
2011-01-20 22:47:04それでも、ずっと思い描いてきた電脳コイルの未来を忘れることはできなかった。プログラミングに打ち込んだ時間を、なかったことにはできなかった。ARへの憧れは消せなかった。
2011-01-20 22:47:21僕は天才と呼ばれる人間ではなかった。特別ではなかった。ならば僕は誰よりも努力してやろう。彼らより一行でも多くプログラムを書き、一冊でも多く本を読もう。睡眠を捨て、恋愛を捨て、彼らを同じだけの力をつけるまで努力してやろう。
2011-01-20 22:59:30ARへの愛ならば、誰にも負けない。未来の世界作るをだなんて、そんなおもしろそうなことを、彼らだけのものにさせていものか。僕は、自分の望む未来の実現を、他人の手に委ねたくない。
2011-01-20 22:51:23だから。僕はコンピュータを使ってプログラミングがしたい。ARの普及した未来の世界を、現実のものにしたい。それこそが僕にとって、コンピュータの最大の活用法であり、目標である。
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