一年の始まりなので、2016年に電子出版関連でどんな動きがあるか予想してみる

謹賀新年

新年あけましておめでとうございます。

今年も「見て歩く者」をどうぞ宜しくお願い致します。

今年も恒例の「予想」をしてみます。

過去の予想と検証

過去3年の予想と検証はこんな感じでした。振り返ってみると、それほど突飛な予想はしていないので、大外しもしていないという感じです。

「電子書籍」のGoogleトレンドをチェック

予想の前に、Googleトレンドをチェックしてみました。「電子書籍」はここ2~3年、暫減していることがお分かりかと思います。

Googleトレンド

ピークの2010年12月は、シャープ「GALAPAGOS」やソニー「Reader」が発売されたり、au「LISMO Book Store」や2Dfacto「honto」やKADOKAWA「BOOK☆WALKER」などが始まったタイミング。次のピークは2012年7月開始の「楽天Kobo」と10月開始の「Kindleストア」辺りです。(※追記:このエントリーを書いたころはピークが2010年12月でしたが、後日ピークがズレたのと、Googleトレンドの埋め込みが不調なため、当時取得した画像を貼り直しました)

ただ、インプレス『電子書籍ビジネス調査報告書2015』 によると、電子書籍市場は2011年が629億円、2012年が729億円、2013年が936億円、2014年が1266億円と確実に成長しており、2015年は1600億円、2016年は1980億円という予測になっています。つまり電子書籍市場は伸びているのに、「電子書籍」の検索ボリュームは減っているのです。面白い。

仲俣暁生さんが2013年8月にWIREDに寄稿したコラム『さようなら、「電子書籍」』で、“「電子書籍」というぎこちない言葉のほうを、そろそろ脱ぎ捨てたほうがいいのかもしれない” とおっしゃっていました。そのときをGoogleトレンドの起点にすると、いまは4割減といったところです。

実はボクもこの記事を読んでから、なるべく「電子書籍」という言葉は使わず、「電子出版」「電子の本」「(本の)電子版」「電子書店」などという言い方をするようになりました。

電子書籍ポータルサイトとして2010年4月に始まった「ITmedia eBook USER」が2015年9月で更新終了したので、今後はもっと「電子書籍」という言葉が使われなくなるのではないか、という気がします。

2016年には何が起こる?

さて、2016年にはどんなことが起こるでしょうか? 正月早々悪い予想をしても面白くないのですが、出版科学研究所が年末に発表した2015年の出版物販売額は1兆5200億円(直販や電子出版市場が含まれない)と「過去最大の落ち込み」だったことは踏まえないといけないでしょう。電子と紙は地続きなのですから。

電子出版にとって「端末」は非常に重要な要素の1つであることは間違いないのですが、2016年予想からは外しました。しばらく、大型化・高解像度化・軽量化というゆるやかな進化以外、劇的な変化は起きないと思います。

雑誌のWeb化が進む

簡単に言えば「儲かる方へ移行するしかない」という話です。

「えー?」と思ったかもしれませんね。実際、Webメディアが儲かるかどうかは、意見の分かれるところでしょう。ただ、電通が昨年2月に発表した「2014年 日本の広告費」によると、雑誌広告費2500億円(前年比100.0%)に対し、インターネット広告媒体費は8245億円(同114.5%)です。

出版科学研究所によると、2015年の雑誌の推定販売額は前年比約8.2%減の7800億円前後(電子雑誌は含まれていないはずですが、インプレスの予測値を足しても8000億円前後)。雑誌広告費が販売額と同じくらい減って、インターネット広告媒体費が前年と同じくらい伸びたとすると、雑誌販売額+広告費とインターネット広告媒体費がだいたい同じくらいになります。

売上額が同じくらいになるということはつまり、そろそろ定期刊行される紙メディアありきの編集・制作から、まずWebに記事を出した後に紙メディアへ二次利用する方向に移行してもおかしくないはずです。この方向性はアドビが2015年に提供を開始した「Adobe Digital Publishing Solution」でも示されており、ボクが以前いた「情報誌」の世界では10年前に果たしていた変化です。

問題は、既存メディアからコンテンツを安く買いたたいて莫大な収益を上げ一人勝ちだと批判されている「Yahoo!ニュース」や、モラルもへったくれもない「まとめブログ」や「バイラルメディア」の“釣り”がトラフィックを集めたりしている点ですが、この辺りを書き始めると長くなるのでやめておきます。

新書・文庫がデジタルファーストに

新書の粗製濫造傾向は、相当酷いようですね。「束を確保するために無理矢理内容を薄めて話を引き延ばしている」みたいな話もあり。物理的な制限を受けない電子版なら、短くても出せます。雑誌と同様、まずWebで連載してから紙で出すという手も。

文庫は、単行本の発行からしばらくしてから普及用の廉価版として出すモデルが限界。文庫ファーストのラノベもそろそろ辛い。発行点数増は書店の棚を圧迫し返品率を増やすだけですから、「読み捨て」でいい読者は電子版へ誘導し、コレクターには上装丁版、という形に切り分けていった方がいいように思います。

「まずWebで」+実売印税で利益率30%の「アルファポリス」は、成功例の1つです。ただ、完全な実売印税は著者にとってあまりに厳しいので、アドバンスを払うけど実売部数が一定数超えるまでは印税が発生しない、みたいな折衷型モデルが増えていくかもしれません。

問題は、取次から刷部数で入金される錬金術的な仕組みがあるから、発行点数を増やすドーピングがやめられないところでしょうか。まさに自転車操業。雑誌販売額の減で取次流通が危なくなると、取次が果たしていた金融機能がなくなるわけで、早くこのドーピング依存から抜け出さないと大変なことになると思うのですが。

サブスクリプションが急速に伸びる

昨年6月に「dマガジン」がサービス開始から1年で会員200万人突破しています。同じように定額読み放題サービスをやっているところは「ブックパス」「シーモア」「Yahoo!ブックストア」「ビューン」「タブホ」「U-NEXT」などがあります。

恐らく今年、Amazonが「Kindle Unlimited」を投入してくるはずです。Amazonの動きは他社にも大きな影響を与えますから、「Kindle Unlimited」が流行るというより上記の競合他社が負けじと販促に力を入れることで全体が急激に伸びるのではないかと。

ちなみに「Kindle Unlimited」は月額9.99ドルなので、恐らく日本へ投入する際も音楽や映像のように「Amazonプライム会員なら追加料金なし」ではなく、オーディオブックの「Audible(月額1500円)」と同じように別料金になると思います。競合他社より条件悪かったら、出版社がコンテンツ出さないでしょうし。

電子書店の吸収合併が相次ぐ

昨年の予想「4. ソーシャルDRMで直接配信する出版社が増える」の修正版です。

DOTPLACEに寄稿した年次回顧にも書きましたが、2014年の明治図書出版やJTBパブリッシング以降、DRMフリーあるいはソーシャルDRMで配信する出版社は増えていません(少なくともボクは知りません)。ちょっと楽観的過ぎる予想だったようです。反省。ドイツは「DRMフリー元年」だったらしいんですけどね。

わりと日本のユーザーって、DRMでプラットフォームに縛り付けられることを気にしてない感じがします。でも電子書店の閉鎖は必ず起きるし、そろそろ結構ユーザー数の多い中堅どころが倒れる事態も起きそうです。ではそうなったとき、何が起こるか。

これまで電子書店閉鎖時には、返金あるいはポイント還元でユーザーを救済するのがスタンダードでした。これはこれまで閉鎖したところは、会員数が少なかったからできる技だったように思います。

ところが2015年には「BookLive! for Toshiba」が「BookLive!」に統合されるパターン(元が同じ仕組みだから簡単だったというのはあるでしょうけど)や、同じく東芝の「BookPlace」がU-NEXTへ事業継承されるパターンが出てきました。

2014年にはソニー「Reader Store」北米撤退時に、楽天Koboが既存ユーザーを引き継いだ事例があります。実は楽天、2015年にインドの「Flipkart.com」が電子書店サービスを閉鎖するときにも既存ユーザーを引き継いでいるんですね。

日本でもそろそろ、結構ユーザー数の多い中堅電子書店が閉鎖するような事態が起きると思います。でも恐らく、楽天はそういう電子書店のユーザーを引き継ぐ方向に動くだろうな、と。小さいところは引き継いだところでメリットが薄いから難しいでしょうけど。

投稿型プラットフォームがさらに増える

昨年の予想「5. 出版社直営の作品投稿サイトが盛り上がる」の延長上です。

ダ・ヴィンチニュースの “「小説投稿サイト」の2015年を総括” という記事に「2015年新規参入の主なサイト」がまとめられていました。NHN comico「comicoノベル」、ディスカヴァー・トゥエンティワン「ノベラボ」、インデックス「STORIE(ストリエ)」、KADOKAWA「カクヨム」など、小説系だけを見てもどんどん増えてます。

「E★エブリスタ」「小説家になろう」「アルファポリス」「comico」などの成功事例を踏襲し、Webやアプリで人気の出た作品を紙で売るやり方がスタンダードになっていくんでしょうね。IT企業と出版社による、「売れる作家」の争奪戦です。

集英社の「少年ジャンプルーキー」は、年末に「第1回少年ジャンプ+連載グランプリ」を発表したばかりなのでまだ「成功事例」になるかどうか分からないのですが、たぶん今年辺りに講談社や小学館のマンガ編集部が後へ続くと思います。著者の発掘育成方法が変わりますね。


さてさて、2016年はどんな年になるでしょうか。

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