2013年のモバイル業界を最も象徴していたのが、先日米AT&T CEOのRandall Stephenson氏が語った「(米国の)スマートフォン普及率は飽和に近付いており、戦略を見直す時期が到来した」というコメントだ。同氏の語る現在の米国での普及率は75%、日本ではその水準が49.8%となっている。つまり、米国での出来事は1年~1年半ほどで日本に波及する可能性が高い。そんな戦略転換の時期に差し掛かった2014年のモバイル業界を展望してみる。

PC、携帯電話、スマートフォン、タブレットの機器所有率:年齢層別

スマートフォンブームの次にくるもの

現在、米国ならびに日本のモバイル業界で起きているのは「新規顧客の獲得競争」だ。魅力的な端末やサービスであったり、料金で顧客を惹きつけて、新たに回線を契約してもらおうというものだ。もちろん、既存のフィーチャーフォーンを使うユーザーをより利益率の高いスマートフォンに誘導したり、あるいは他社から回線を乗り換えたユーザーに特別な割引を与えるなど「引き抜き合戦」もあるだろう。後者は「MNPの乗り換え割」という形で"いびつ"な競争の象徴的なものになりつつあるが、ある意味で市場に競争を生み出して料金引き下げを起こしており、一部ユーザーがその恩恵を受けたりもしている。

前述のStephenson氏が訴えるのは、このような形でこれまでやってきて順調に契約を伸ばし、特に大手2社に顧客が集中するという寡占状態を達成したが、今後これまでやってきた手法でのビジネス拡大は難しくなるというものだ。2007年のiPhone登場以降、同端末の米国での独占販売権を獲得したAT&Tは順調なビジネスを展開し、最大のライバルであるVerizon Wirelessを巻き込んで、全米でのスマートフォンブームとその関連ビジネスの立ち上げに寄与した。しかし市場拡大の原動力となったスマートフォンはその需要が一巡し、現時点で75%の普及率に到達、おそらくあと1年ちょっとで90%に達するだろう。

同氏は、もうスマートフォン市場拡大による新規顧客獲得は望めず、これ以上の過当競争は業界を疲弊させるだけということをコメントで訴えているわけだ。具体的には、新規顧客を獲得するために端末を安価にばら撒き、長期契約縛りによって月々の利用料金から端末割引で生じた損失を回収していくというモデルを止め、「量から質」への転換を果たしていこうというのだ。ここでいう「質」とはいろいろな解釈があるが、実質的な値上げであったり、あるいは付加サービスで新たな収益源の確保など、顧客1人あたりからの収益を増やす点に共通項がある。