この記事は2013年4月に掲載されたものです。
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大都市から離れた人口3万人の市町村で劇団活動は可能なのか

カテゴリー: さくてき博多一本締め | 投稿日: | 投稿者:

●「fringe blog」は複数の筆者による執筆です。本記事の筆者は 高崎大志 です。

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本土でもっとも南の県である鹿児島県の北部に伊佐市という人口約3万人の市があります。周辺の都市からもはなれており、人口約60万人の鹿児島市まで車で1時間30分程度を要します。
伊佐市といえば焼酎が有名です。伊佐錦・伊佐美・伊佐大泉という焼酎の銘柄にピンと来る方がいらっしゃるかもしれません。

先日(4/13)この伊佐市に拠点を置いて活動する「演劇集団非常口」の公演に行ってきました。福岡からだと九州新幹線から路線バスに乗り継いで約2時間。2時間というとそんなに遠い印象はありませんが、そのバスは1日4本です。バスの時間にあわせての移動です。
市街から少し離れた運動公園と同じ敷地に伊佐市文化会館があります。1300席の大ホールの舞台上につくられた特設劇場が、今回の公演「四畳半の翅音」の会場です。

演劇集団非常口は地元の高校の演劇部が母体となり旗揚げされ、約12年になるそうです。「四畳半の翅音」は第三回九州戯曲賞の大賞を受賞した作品で、初の舞台化となる今回の公演に注目が集まっていたところです。

130席ほど用意していた客席では足りず、急遽座席を追加していましたが、それでも10名ほどの立ち見がでる盛況ぶりとなっていました。
翌日にあった公演も考えると、伊佐市の人口の1%にあたる観客が訪れたことになります。

職業劇団を除けば、日本で演劇活動を行なっている人の大半は20代、30代の若い世代でしょう。そしてそれはほぼ都市に集中している。95%・・・いやもっと高い率で集中しているかもしれません。数万人単位の若い世代と、ある程度の時間の自由がきく仕事が多くあることが必要です。
そういった環境から離れた伊佐市で、12年にわたり15回の公演を行なってきた劇団に敬意を感じるとともに、多くの観客で溢れる客席の光景に感動に近い思いを持ちました。

今回の演目である「四畳半の翅音」は、本拠である鹿児島県伊佐市にとどまらず、この後、宮崎県と福岡県での上演を予定しています。人口3万人の市に、資本的または政治行政的な背景のないいわゆる普通の劇団が活動して、そして複数の他県で他地域公演を行うという例を寡聞にして聞いたことがありません。まったく事例がないとまでは言いませんが、国内の地域演劇シーンでたいへん貴重な例であり偉観といっていいと思います。

伊佐市としてもこの劇団の活動を伊佐市の文化資源と捉え、空き施設を活用して専有利用できる稽古場スペースを提供するなど、その活動を支援していくという選択を検討してもよいように思います。

「四畳半の翅音」は、8月には福岡公演が予定されています。宮崎・鹿児島の2県での公演を経て、ブラッシュアップされた舞台が福岡で上演されることをとても楽しみにしています。

(参考リンク)
伊佐市(Wikipedia)
演劇集団非常口