婚外子の相続格差、解消すべきですか
クイックVote第122回
日本経済新聞社は「電子版(Web刊)」の有料・無料読者の皆さんを対象とした週1回の意識調査を実施しています。第122回は、結婚していない男女の間に生まれた子ども(婚外子)の相続権は法律に基づく夫婦の子ども(嫡出子)の半分と定めた民法の親族法の規定を見直すべきかどうかについて、皆さんのご意見をうかがいます。日本経済新聞のフェイスブックでもコメントを受け付けています。
最高裁は2月27日、遺産相続を巡る2件の裁判の審理を小法廷から大法廷に回付しました。最高裁には長官を含め15人の判事がいますが、通常は裁判ごとに5人を選び、担当させます。これを小法廷と呼びます。審理が憲法判断にかかわるときだけ15人全員で取り組みます。これが大法廷です。
つまり大法廷に回付するのは新たな憲法判断を示す判決を下すときだけです。2件の遺産相続争いはいずれも婚外子が絡んでいます。これらのことから、最高裁が婚外子の遺産相続のルールを見直すかもしれない、ということがわかります。判決は年内に出る見通しです。
では何をどう見直すのでしょうか。民法の親族法の規定を読むと、遺言などで分配比率が明示されていない相続の場合、配偶者が半分、残りを子どもが分けるとしています(配偶者だけの場合などは別)。
長男でも次男でも長女でも比率は同じです。昔の日本では家督を継ぐ長男が全部もらい、次男以下はせいぜいつかみガネというのが常識でした。戦後はすべての国民の平等をうたう日本国憲法の精神に沿って、平等になりました。
例外が婚外子です。民法900条はこう規定しています。
『兄弟姉妹が数人あるときは各自の相続分は相等しいものとする。ただし、嫡出でない子の相続分は嫡出である子の相続分の二分の一』
既婚者が配偶者とは別の相手との間につくった子どもを想定した明治時代の規定を踏まえています。
つまり1000万円を嫡出子2人と婚外子1人で分けるときは333万円ずつではなく、2人の嫡出子に400万円ずつ。婚外子は残りの200万円をとることになります。
素封家が亡くなって子どもたちが遺産を分けようとしていたら、葬式に見知らぬ女性が乳飲み子を抱えて現れ、「この子は大旦那さまの子です。うちにも遺産分けを」と言い始めた。子どもたちは取り分が減ると怒り心頭。「愛人の子にはちょっぴりでいいよ」と小金を握らせてお茶を濁した。当時の社会慣習はこんな感じでしょう。
しかし、時間の経過とともに、欧米では嫡出子も婚外子も扱いは同じという国が増えました。国連は日本に法改正するよう何度も勧告してきました。
こうした動きを踏まえ、法相の諮問機関の法制審議会は1996年に嫡出子と婚外子の相続比率を同じにすべきだと答申しました。ところが自民党の保守派は「法務省は不倫を奨励するのか」と猛反発。2009年の政権交代を経た10年にようやく法案化するところまでいきましたが、民主党政権がごたごたしていたせいもあり、国会へ提出しないまま下野しました。
世論はまだまだ婚外子を同じに扱うことに後ろ向きです。内閣府の昨年の世論調査では現行ルールのままでよいと思う人が、格差はなくすべきだという人よりも多数でした。
国際標準と国内世論のどちらを優先すべきかは、「第121回クイックVote」で取り上げたハーグ条約加盟の是非とも共通するテーマです。世界的には少なくなっている死刑制度を続けるかどうかも似た事例です。
相続格差に関しては国連の意向を別にしても、法の番人である最高裁が「違憲」との判決を出しそうなのですから、国会はもたもたしている場合ではありません。
最高裁の違憲判決には法律を自動失効させる権能があるので、判決までに法改正がない場合、民法900条の『ただし』以下の規定は空文化します。親族法の根幹にかかわる条文がある日、突然消滅し、被相続人がその前日に亡くなった場合と翌日に亡くなった場合で扱いが異なることになるかもしれません。
現実的な判断としては、政府・与党が6月に終わる今国会中に法改正を急ぎ、施行日はいつか、経過措置はどうするのか、などを決めた方が最高裁判決でいきなり事態急変という場合よりも混乱が少ないのではないでしょうか。
政府は違憲判決が出て、相続格差が無効になった場合に備え、判決が出る事例と同じ日付以降の死亡に伴う相続すべてで相続比率の変更が起きるのか、それとも最高裁判決以降でそうなるのか、社会の混乱を避けるために分割協議が円満に終了していたケースはそのまま格差有効で押し通すのか、などの指針を早めに示した方がよいでしょう。
毎年生まれる子どもに占める婚外子の比率は2011年は2.2%。1995年が1.2%でしたから、かなり増えてきました。一見すると普通にみえる夫婦でも法律に縛られたくないとか、職場での名字の変更は困るとか、の理由で婚姻届を出さずに事実婚にしているという人もかなりいます。婚外子はもはや珍しくなくなりつつあるといえるでしょう。
ちなみに過去の違憲判決で最も有名なのは尊属殺人の重罰規定に対するものです。親殺しへの刑罰は普通の殺人よりも厳しくするとしていた刑法200条はこれで失効し、被害者が誰であろうと刑罰の重さは動機や残虐性など同じ基準で判断することになりました。1973年のことです。最高裁は社会通念の変化に案外敏感です。
今回は3月5日(火)までを調査期間とし6日(水)に結果と解説を掲載します。アンケートには日経電子版のパソコン画面からログインして回答してください。ログインすると回答画面が現れます。電子版の携帯向けサービスからは回答いただけません。