皆さん、こんにちは。大津です。



まずこれは私が今診療している
患者さんやご家族の決断を否定する
ものではないとお伝えしておきます。


一般的な話としてお聞きください。


非常に進行したがんの免疫治療。

例えば化学療法(抗がん剤治療)が
もうできなくなった際の免疫治療。

最近希望される方が増えています。

あるいは昔からあるなんとかワクチン
などというものも、免疫の外貌を
まとってはいます。

なにか「免疫」という言葉は
自分の身を守ってくれるようであり
また自分の力を賦活するかのように感じ、
共感を呼びやすい言葉であることも
ある種引きつけられやすいのではないかと
思います。


しかし、そのような高度進行期
あるいは終末期の免疫治療は
効きません。

実際に私も相当数の患者さんや
ご家族がそれを希望され、施行して
来られた事例を見て来ていますが、
治癒例はありませんし、延命例も
症状緩和例も、少なくとも現行の
ものではなかったです。

何度も拙著で述べていますが、
「本当に効くなら」すぐに標準治療に
なります。このご時世です。情報伝播は
はやいです。「この治療を認めないのは
医学界の陰謀だ」・・とんでもありません。
効かないからいつまでたっても確立した
標準治療にならないのです。
(繰り返しですが、抗がん剤治療が
無効になった高度進行期、終末期の話です)

免疫治療のいけないところは、
まず経済的負担が大きいことです。
効かないのに、非常に高いお金が
かかります。

ただ私が最もいけないと思うのは、
「やるべきこと」「やらなければ
ならないこと」をやる時間を削ぐこと
です。

それは誰でも生きたいものでしょう。
気持ちはとてもとてもわかります。

けれども抗がん剤をできるだけやる、
免疫治療をできるだけやる。
そして残り時間がありませんでした。

それでは治療の意味は何なのでしょうか?

多くの固形がん(非血液がん)の場合
抗がん剤も、免疫治療も目指すところは
QOLが保たれた延命でありましょう。
実際に私がよく仕事でお世話になっている
抗がん剤治療の専門医は「抗がん剤治療
は延命治療です」とはっきり仰っています。

それなのに、生きること、そのために
治療を最後まで受けること、これだけに
時間をすべて注いで、
ほとんど自分や家族のために時間を
使うことができなかった方を私は
たくさん見て来ました。

最近では緩和医療を受けて、せっかく
一時的に状態が良くなっているのに
望まれるのは「あくまで治療」という
例があります。

それで本望なのかもしれませんが、
私は残された側がいずれ後悔しやすい
のは治療にプライオリティを置きすぎて
「良い時間を過ごす」「自分のための、
あるいは家族のための時間を過ごす」
ということが二の次になってしまった
場合にそれが多いと感じています。

治療に終始し、結果に裏切られる。
これほど虚しいことはありません。
実際に「効かない」ことに気がついて
煩悶された方もいらっしゃいました。
ご家族ばかりではなく、ご本人も
つらいのです。


これら高度進行期や終末期の
患者さんの免疫治療を行っている
診療所やそこで働いてらっしゃる
医師は、
「なぜ効かないということを
説明しないのか」
と私は思います。

偽りの希望を尊重することが
本当にQOLを上げているのでしょうか。

これらのクリニックが自費診療で
1回何十万もする治療を行っていること、
しかも身体の状態が悪くなった際に
入院診療を行わないこと、その割に
緩和医療で重要な薬剤である
ステロイドを「免疫を下げるから」と
使用中止を患者さんに勧めたりすること
などから、私はいつも「責任とは何か」
と考えさせられます。

終末期の体力低下に対し、
「胸水を抜いてもらいなさい」「輸血を
してもらいなさい」と元々通院している
病院でそれらの行為をやってもらうように
患者さんやご家族に勧奨するクリニック
もあります。しかし余命が厳しい場合に
存在するだけというレベルの胸水や
貧血が苦痛症状の主原因であることは
稀です。ゆえにそれを必ず対処すべき
”大きな問題”として扱うのは誤っています。

私もかつて、余命がもう短い週単位の
方の高度の全身倦怠感に対し、某免疫系
クリニックの先生が
「胸水を今かかっている医者(私たちです)
で抜いてもらわないと免疫治療ができません。
だるさはそのためでしょう」というおよそ
すさまじい(間違っている)説明をされて
びっくりしたことがあります。患者さんや
ご家族はそれでも信じてしまいますから
「免疫治療の先生はこう言っていた」
「先生とは意見が違うようです」となって
しまいます。さして貯まっていない胸水で
この患者さんほどの高度の全身倦怠感が
出るわけもなく、むしろ呼吸困難もないのに
胸水穿刺をすることは心身の苦痛を増して
消耗につながるのではないかとさえ思いました。

まあそのようなちょっと違った説明をして
しまうことはともかく、
せめて「効かない」とは言わないまでも
「この時期ではなかなか思うような
効果は上げません」だから「この免疫
治療と並行して『やりたいことやるべきこと』
『自分や家族のために時間を使うこと』を
同時にやってくださいね」とどうして
言ってくれないのでしょうか?

私が知っているある患者さんは
とある免疫クリニックにて
血液検査だけでも、何十種類ものマーカーを
計測するので1回数万円かかっていました。

しかもそのうちのいくつかの数字をもとに
「良くなっている」
と最後まで言われ続けていました。

患者さんは「マーカーは良くなっているのに」
と繰り返していました。
ADLが落ち、食事も取れなくなり、
寝ている時間が増えて、「おかしい」と
仰って亡くなっていかれました。
ご家族も「あっちの先生は『良くなっている』と
言っていたのに!」と仰っていました。
その「良くなっている」の根拠は、亡くなる
1週間前に採られているあの1回数万する
血液検査です・・。

こういうことがあるのです。日本の現実です。

これが本当の希望なのか? ということです。

これではお金を儲けるために
やっているのか、と言われても仕方ないでしょう。
だから効きもしないものを、「効く」と言って
「希望」の名のもとにやっているのではないか
と勘ぐられてしまいます。

免疫クリニックで働いている先生方の
良識に期待したいと思います。残された時間の
QOLを上げるための説明をどうか十分なさって
ください。


そしてまた、皆さんにはくれぐれも
騙されることがないように、
「高度進行期・終末期の免疫治療は効かない」
だからやることは止めはしません(ちなみに
自分だったら絶対にやりません。お金の無駄です)が、
「同時にQOLを上げることを忘れないでください」
具体的には
「やるべきことやりたいこと」を並行して全力で
やってください。自分のために、家族のために
時間を使ってください。
どうか後悔が少ないように。


くれぐれも双方に、お願いしたいと思います。
よろしくお願いします。


一人でも多くの方に良い時間を過ごしてほしいと
願う立場からすると、
最近のこの(高度進行期・終末期の)免疫治療は
むしろ希望どころか、抗がん剤に裏切られ
免疫治療にも裏切られる、という絶望にさえ
つながっているのではないかと感じます。

悲しいことです。

ぜひとも正当な知識を広めて、そしてよりよい時間を
過ごせるようにしていかねばなりません。
皆さんのご協力をお願いしたいと思います。


それでは皆さん、また。
いつもありがとうございます。
失礼します。