筆者のDerek Sivers氏は、起業家、プログラマー、ミュージシャン、音楽配信サービス「CD Baby」の創立者でもあります。世界に向けてサービスを展開するDerek Sivers氏は、自ら「出身地はない」と言うほど、世界を飛び回っています。そんな彼だからこそ話せる、グローバルな人間になるためのポイントを聞いてみましょう。

時間の使い方は人それぞれです。

ローカル志向の人(自分の土地に根付いてる人)は、社交的で顔を合わせた付き合いを大事にし、コミュニティの一部を形作ります。同時にそれは、世界に向けて何かを創造する時間を削っていることにもなります。一方で、グローバル志向な人は、世界へ届くものを創造することを大事にします。でも、自分がいる土地の人々と関わる時間は減ってしまいます。

どちらかが正しいわけではないけれど、どちらを選択しているかは意識を向けたいところです。私は、両方の時間の使い方を試してみて、その違いを感じ、自分なりの決断を下しました。私には「地元」や「ローカル志向」は不要だと考えたのです。

これまでの私の経歴を追いながら、その理由をお話します。ニューヨーク州ウッドストック、オレゴン州ポートランドに3年ずつ滞在

私はウッドストックの森の中の小さな家に住みながら、自身の会社「CD Baby」と「Hostbaby」を立ち上げ、何千人もの人々と関わりました。そこを離れた後、「ウッドストックの人たちはどんな人たちでしたか?」と聞かれた時に始めて、ウッドストックでは誰とも出会わなかったことに気付きました。ただ住んでいただけで、誰とも人付き合いをしなかったのです。私の意識は世界に集中してましたが、創業してすぐの頃にはとても効果的でした。

その次は、ポートランドで3年間。起きている時間はすべて、自社ビジネスの成長に集中し、非常に生産的な日々でした。世界中に、大切で深い関係の友人ができましたが、ポートランドではひとりも友人ができませんでした。ポートランドでは全然遊ばず、私の意識はまだ外に向いていました。

その後、シンガポールで真逆の生活を2年間

2年前、シンガポールに引っ越してからは全く逆のことを試みました。その土地の人のことを知るべく、400人以上と会いました。1対1もあれば、あらゆるカンファレンスや集まりにも参加。すべての誘いに「Yes」と答えました。この2年間はほとんど人と話をして過ごしたので、シンガポールのコミュニティについて熟知できました。

でも、ウッドランドやポートランドの時とは何かが違いました。丸一日話をした後には、大体疲労しきっていましたが、心が満たされなかったのです。「私の脳をつつきたい人」と過ごす2時間は、世界全体、世界のみんなに役立つために使いたい2時間だと考えました。そのうち世界中の人たちから、「最近君はなぜこんなに無口なの?」と問いかけるメールが来ました。新しい記事は書けておらず、会社の進展もなにもなかったのです。

これがローカルに注力しすぎた代償でした。オンラインで何かを創りだしていた時よりも、あまり役に立たない人間になってしまっていました。

ローカル/グローバルの選択を意識する

さて、ここではっきりと認めます。私はローカル志向の人間ではありません

引っ越しを何度も繰り返しているので、私には特に「出身地」はありません。ロンドン、ロサンジェルス、ニューヨーク、ニュージーランド、シンガポール、サンフランシスコ、インド──全てに同じつながりを感じています。私にとって大切な人たちだし、全部私の「ホーム」です。でも、「ホーム」があるからといって、外の世界を無視するべきではありません。

自分のいる土地に意識を集中することに、いつも何かしらの違和感を覚えていました。私がウッドストックとポートランドにいた時、人々は「その土地の音楽シーンを盛り上げるために何をしているのか」と尋ねてきました。でも、私にとっては、ウッドストックもポートランドも、はたまたウェリントンやプラハだって同じに感じます。

内部と外部で強い隔離を感じさせる人がいます。あなたがその人の家族、近所、教会、学校の一部、または友達の友達ならば、「内部」の人になります。それ以外は「外部」の人とみなします。彼らは、「大学に行くのは生涯のコネのためだ」と言い、ビジネスでは内部の人を特別扱いします(これを「クロニズム」といいます)。

まったく隔離を感じない人もいます。彼らは、あなたがどこ出身であろうと、誰を知っていようと、同じように接します。「外部」の考えは存在しません。彼らとの強い絆が生まれた場合、それは出身地やどこに住んだかに拘わらず、あなた自身が誰かということに基づいています。

あなたにとっても、どちらかが自然にしっくりくると思います。内向的か外交的なのか。保守的かリベラルなのか。基本となるこれらの世界観が、自分がローカルなのか、グローバルなのかを形づくります。

あらゆる業界の中でも、その決断は一人ひとり変わってきます。例えば、あなたがベジタリアンのための食品を作りたいと考えたとします。ベジタリアンのレストランを開くのもいいし、配給できるベジタリアン食品を生産するのもアリです。ミュージシャンなら、100回のライブをする手もあれば、または100曲をつくるのも手です。

焦点が変われば、アプローチも変わります。

両方が必要です。どちらか一方が正しいわけではありませんが、何を選択しているかを意識するのが大事です。私の場合は、顔を合わせたミーティングはやめることにして、対象がどこにいようと、誰であろうと役に立つ執筆、プログラミング、そして収録をすることに、完全に意識を向けることにしました。

Derek Sivers(原文/訳:山縣美礼)