2010年7月24日(土)「しんぶん赤旗」

“需要に基づく成長”提起

経済財政白書 多国籍企業寄り分析


 荒井聡経済財政担当相は23日の閣議に2010年度の年次経済財政報告(経済財政白書)を提出しました。日本経済の「積年の宿題」の解決を図るとして、需要にもとづいた成長を提起しました。

 1990年代以降の約20年間における日本経済について白書は、「需要不足の基調にあった」と指摘。「こうした傾向は他の国では見られない」日本固有の特徴だったとしています。その理由として、90年代のバブル崩壊によって土地、株価などの資産価格が90年から2008年の累計で1500兆円を超えていたことを挙げています。さらに、中国などの新興国への輸出依存の高さが、「賃金を始めとする労働コストを抑制している」と分析。ただし白書は、「輸出企業の競争力の維持がデフレ圧力をもたらすからといって、コスト削減努力それ自体は否定すべきものではない」と指摘。多国籍企業の立場にたった分析となっています。

 経済の牽引(けんいん)役である設備投資についても白書は、増加に寄与しているのは「外需」だと指摘。03年以降の設備投資の拡大は、輸送機械、精密機械、電気機械などの海外生産比率が高い業種が中心であったとしています。

 さらに、08〜09年にかけての失業率の上昇は、「需要不足が主因」と分析。雇用情勢の悪化の特徴として若年世代の雇用環境を挙げ、若年層で長期失業者が増加している、と指摘しています。

解説

「需要の喚起」を言いながら「企業収益向上」にすりかえ

 「積年の宿題」解決を掲げた経済財政白書は、「需要に直接働きかけ、『需要からの成長』を目指す」ことの必要性を強調しました。さらに「家計を重視した景気回復」という言葉さえも使い、「家計関連の需要はGDPの約6割を占めており、その一部であっても新たな需要が喚起されれば、経済全体への波及効果は少なくない」ともいいます。

 これらの指摘は、白書が日本経済の最大の問題である「内需不足」に目をそむけることができないでいることを示しています。ところが白書がいう「積年の宿題」の解決手段は、“企業の収益を増やせ”というものです。白書は、家計所得を増やすためには、「企業が家計に配分するための原資が必要である」といいます。そして、「企業が収益を拡大できるような様々な基盤の整備」を提起し、「企業収益強化」に話をすりかえ、法人実効税率の引き下げも求めるものになっています。

 日本経済の閉塞(へいそく)感を打開するためには、「企業収益強化」ではありません。一握りの大企業が富を独り占めにするシステムを大本から改革することです。

 大企業は、世界的な金融経済危機に直面し、職場では人間らしい雇用を破壊し、下請け中小企業に犠牲を押し付けてきました。経済危機から国民の生活を守るためには、大企業の過剰な内部留保と利益を国民の暮らしに還元すること、大企業と中小企業との公正な取引ルールをつくることこそ必要です。(金子豊弘)





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