『がんワクチン治療革命』著:中村 祐輔
がんと戦え! 希望を失わずに
私は二〇一二年四月に日本を去り、米国シカゴ大学に移った。日本という国の現状に失望し、自分の無力さを痛感し、しかし、がん患者さんへの希望をつなぐための光を求めて。
日本で「がん難民」という言葉が使われるようになって久しい。多くの方は、この言葉から現代医療のすべてを尽くしても救えず、希望を絶たれたがん患者をイメージするのではないかと思う。しかし、海外で利用できるにもかかわらず、わが国では利用できない治療の存在が、「がん難民」を作り出していると考える人も少なくない。
この背景として、臨床試験(治験)の環境が海外に比して悪いこと(高コスト、長時間、低品質)が指摘されたため、国はいくつかの対策を講じ、欧米での薬剤承認と日本での薬剤承認の差(ドラッグラグ)の短縮に努めてきた。
しかし、他のアジア諸国の台頭とともに、日本の存在感が低下し、日本飛ばし(ジャパン・パッシング)が顕著となり、再び、危機的な状況を迎えている。また、日本発のがん分子標的治療薬の開発の遅れや、日本人患者が新しい治療薬にアクセスできないことが、問題を拡大させている。
これら新しい治療法を受けることのできない(海外にはあるが日本で使えない、または、世界中のどこにもない)「がん難民」に加え、正しい情報に基づいた治療法を受けることができない「がん治療難民」も多く存在している。
現在、日本ではがんに罹る生涯リスクは五〇%、すなわち、二人のうち一人の日本人ががんを体験するが、がんは決して治らない病気ではなく、適切な情報に基づいた適切な治療を受ければ、がん患者の半数は治癒する。
ところが、がんという放置すればほぼ確実に死につながる病名を告知された場合でも、「できれば手術を受けたくない」「できれば乳房を残したい」「できれば抗がん剤治療や放射線治療は副作用が苦しいので受けたくない」と考える患者さんは少なくない。今は、セカンドオピニオンが比較的簡単に受けられ、判断に迷った患者さんは別の医師の考えを聞き、それに基づいて自分の受ける治療を選択する。
アメリカで本格的に位置付けられたワクチン療法(特異的免疫療法)の開発の最前線で、末期がんが消えた!という驚くべき臨床例が。がん研究・治療の最先端をゆく中村教授から、がん患者とそのご家族に伝えたいがんとの戦い方と、2012年11月18日のNHKスペシャル「がんワクチン~夢の治療薬への格闘~」でも紹介されたワクチンの全容。 「私は最後まで希望を捨てません。だから、けっしてあきらめないで。がんと戦ってください」・・・・・・世界のナカムラが、がん患者に「希望」を届けたい一心で開発した「がんペプチドワクチン」。巷にあふれる科学的実証がされていないワクチン療法と、どこが違うのか――がんと戦う勇気の出る治療最前線!