官々愕々
トンネル崩落事故+既得権=?
9人の死者を出した中央高速道路の笹子トンネル崩落事故。この衝撃的なニュースは、日本の社会インフラの老朽化が危機的な状況になっていることを広く国民に印象付けた。
日本の高度成長期を象徴する1964年の東京オリンピック。新幹線、高速道路など、日本中で大規模公共投資が行われ、社会インフラが急速に整備された。夢と希望に満ち溢れた時代だった。
それから、50年。日本社会は停滞から凋落への道を歩み始めている。インフラ老朽化に伴う大事故はそのことを私たちに示した。
既に事故原因として、日常の点検に問題があったことがわかってきた。誰もこんな事故になるとは思っていなかった。福島原発事故と同じ。人間の知恵と洞察力の限界をあらためて思い知らされた。人間は変わらない。
震災後、災害対策を口実に復興予算が全国で流用された。今回の事故でも、「国民の生命・財産を守る」ために公共投資の増額をという声が高まり、選挙活動に利用する政党まである。
確かに何の対策もとらなければ、行き着く先は、単なる橋やトンネルの事故にはとどまらない。地域の崩壊、そして、国家の崩壊にさえつながりかねない大問題である。しかし、単なる予算増額では、結局は国家崩壊への道筋から抜け出すことは出来ない。
この問題に警鐘を鳴らし続ける根本祐二東洋大学教授の試算では、公共インフラの更新投資額は今後50年間で330兆円。増大する社会保障費に対応しつつ財政再建も行うのに、増税だけで対応する政府のやり方だと5%どころか20%の消費税増税でも足りない。
それに加えて、公共事業費を大幅に積み増すのは事実上不可能だ。にもかかわらず、これまでの延長線上で、災害対策と更新投資のために予算を増やすということだけが進む可能性が高い。とりわけ、各省縦割りの官僚に対策を作らせたら、千載一遇のチャンスとただの予算分捕り合戦に終わるのは明らかだ。
今、最も大切なことは何か。いくつかのキーワードがある。まず、「作らない公共事業」。維持更新だけでも大変なコストがかかるから、原則として新規の公共投資は止める。更新も「選択と集中」が必要だ。作る場合は、その効果が絶大なものに限るとともに、民間の知恵を導入して、維持費を含めて低コスト化を図る。整備新幹線3線同時着工などは論外。高速道路の新規着工もダムもしかり。
その代わり維持補修はしっかりやる。その方が長持ちして結局安上がりになる。「維持費5割効率化目標」なども必要だろう。また、危険な橋やダムなどを「取り壊す」のも公共事業だ。地方の美しい自然の中にある、廃墟のような公共施設を取り壊せば、景観をよくし観光振興にもなる。維持し、壊す公共事業、「作らない公共事業」だ。
さらに重要なのは、全国の自治体に「インフラ維持更新計画」策定を義務付けることだ。その際、公共施設の削減を義務付け、従わない場合にはペナルティを科すなどの荒療治が必要だ。政府・自治体に民間企業並みの管理会計を導入する「政府・自治体の会計改革」も必須だし、住民への「情報開示」も大前提になる。
公共インフラの削減は、単にゼネコンや族議員との「闘い」にとどまらない。既得権は、そこで働く公務員、施設を利用する住民にもある。公共施設廃止には必ず組合や住民の反対運動が起こる。自治体の首長がこれと闘えるのか。
国と地方を上げて、単なる予算増大運動に終わらせない、「既得権と闘うインフラ再生戦略」が求められている。
『週刊現代』2012年12月22・29日号より
「核のゴミ」を処理できないという大問題の解決策がない以上、「原子力は悪である」という前提に立った上で取り扱うべきだという「倫理感」が国民の共通基盤になるはずだという筆者の思いは、熱く、なおかつ説得力がある。
福島第一原発の事故で原発の恐ろしさに目覚めた人、原子力ムラの企みと横暴に怒りを感じた人、そして「脱原発」を目指す多くの人に、真実を伝え、考える道筋を示し、そして希望を与える「魂のメッセージ」。