まだなんでかわからないけど、とにかく有効!
毒をもって毒を制す、といえば先日も「HIVウイルスが白血病治療に有効」という記事がありましたが、今回はサソリの毒です。脳腫瘍の摘出手術を正確にするのは非常に難しく、そのため危険でもあります。脳内のがん組織は健康な組織とそっくりで、しかも処置が1mmでもずれてしまうと患者に麻痺などの後遺症が出てしまうのです。また、そんな後遺症が見られても、その原因が腫瘍なのか、手術の際の損傷なのかはほとんど判別できません。シアトル小児病院の小児脳腫瘍学者、ジム・オルソン(Jim Olson)氏は、この課題の解決策を「意外なところ」に求めました。それは、サソリの毒です。
まだ仕組みは完全にわかっていないのですが、サソリの毒から抽出したタンパク質は、がん組織にのみ結びつくのです。また、血液と脳の間の物質交換を制限する「血液脳関門」という仕組みがあるのですが、そこもサソリの毒のタンパク質は通過できます。
このタンパク質を人工的に作り出し、近赤外線で光る物質と結びつけて患部に注入すると、がん細胞を光らせることができます。オルセン氏らはそうしてできる物質を「腫瘍ペイント」と呼んでいます。脳腫瘍摘出手術で腫瘍ペイントを使えば、がん細胞と健康な細胞の区別がはるかに簡単になり、がん細胞を取り除きつつ、周りの細胞を傷つけずに済むのです。
マウス実験はすでに成功しています。人間の腫瘍を移植したマウスに腫瘍ペイントを注射、20分もするとがん細胞が光り始め、マウスの体の健康な組織とは明らかに区別できました。人体での実験は、2013年後半にも開始される予定です。
毒に由来するものではありますが、研究者らはこの腫瘍ペイントは「安全のようだ」と言っています。まだ完全な裏付けはありませんが、より研究が進むことで、従来救うのが難しかった多くの人を助けられることを祈ります。
miho(Ashley Feinberg 原文)