かつて日本中のどこでも普通に存在した「和室に仏壇」という光景。しかし、現代の住宅事情のなかで、現実的に仏壇を置くスペースを取れないケースや、こだわりのインテリアにそぐわない仏壇が敬遠されるケースも多く、日々の生活のなかで故人を悼み、先祖を尊ぶ習慣自体が薄れつつあるのではないだろうか? そんななか、「いのりのおうち」という新しい供養のカタチが、2012年のグッドデザイン賞を受賞。「仏壇ではないの?」「どういう風に利用するの?」といった素朴な疑問を、企画販売を行う株式会社インブルームスの菊池さんにぶつけてみた。
A.「いのりのおうち」は、大切な人への「祈りの場所」です。もちろん、仏壇として使うこともできますが、使い方を限定するよりも、本来の「供養」や「祈り」といった習慣自体を大事にしたいという想いでつくりました。ある人にとっては仏壇や祭壇、ある人にとってはお墓。あるいは、ただ大切な人に思いを馳せるための場所であってもいい…。もっと自由な供養のスタイル、祈りの場所の選択肢があってもいいと思うのです。
A.「家」というのは世界共通のもので、大切な家族がいる場所です。守るべきものであったり、心安らぐ場所だったりもしますよね。また、小さな子どもには「仏壇」の意味は分からないかもしれませんが、「お母さんのおうちだよ」と言えば、そこに亡くなったお母さんがいて、見守ってくれるような気持ちになれるのではないでしょうか? そういう象徴的な存在として、「家」の形を採用しました。
A.使い方は十人十色。自由に使っていいんです。どの部屋に置いてもいいし、中や周りにどんなものを並べるかは、「大切な人を想って」考えればいいと思います。愛用の小物や、お気に入りの写真をフレームに入れて置くのもよいでしょう。ただ、やはり「仏壇」のように使われるケースが多いので、その場合は「お位牌」を中心に据えることになりますね。「いのりオーケストラ」というサイトで、デザインをそろえたお位牌やおりん、香立、花台なども周辺商品も取り扱っていますので、参考にしていただければと思います。
A.「こうしなければならない」という明確な決まりがあって、供養する側、またはされる側の希望でその通りにしたいのであれば、そうするべきかもしれません。しかし、例えば法事を仕切っていただくお寺さんなどでも、「仏壇はこうでなければならない」と指示されるケースは、実はあまりないのではないでしょうか? そこにこだわるより、自分のスタイルで供養していきたいという人にこそ、「いのりのおうち」の意味があるのだと思います。
A.お墓の土地や墓石、加工料などを含めれば、かなりのお金がかかります。実際、お墓を建てないまま、遺骨を仏壇の中などに置いて供養している人も多いと聞きます。また、お墓を建てたとしても、家から遠かったり、世代が変わって管理する人がいなくなったりと、維持できなくなるケースも多いようです。だからこそ、散骨や樹木葬などの新しい埋葬方法も増えているのでしょう。また、残念ながら死産となったお子さんや、家族同然のペットのために、小さな骨壺を中心に据え、お手元で供養される方もいらっしゃいます。もちろん、宗教的な考え方が色濃く出るものですので、「選択肢が一つ増えた」と思っていただければよいのではないでしょうか。
A.受賞コメントでは、「仏間はもちろん和室すらなくなっている現代の住居において、故人をどのように奉るかというのは、新たな課題である。この家具は、単に仏壇をミニチュア化したものではなく、新たな祈りの場のかたちを提案しようとしている。」として、評価いただきました。大切な人への「いのり」の場所やカタチについて、もっと自由に、自分らしく考えるきっかけになってくれればと思います。
先日商品を見に来たお客様が、「(亡くなった)彼らしい!」と「いのりのおうち」を選ばれました。「生前、彼がいつもギターを弾いていた場所におきたい」とのこと…。そんなふうに、「自分らしい」「あの人らしい」供養のカタチを提案できる会社、商品を、これからもつくっていきたいですね。
たくさんの住まいを取材するなかで、仏壇を扉やカーテンで覆って、普段は見えないようにしているお宅を何軒か見たことがある。そうなると、どうしても扉を開ける機会は少なくなってしまうだろう。大切な人に、毎日「おはよう」と声をかけられるような、そんな「祈りの場所」が、もっと身近にあってもいいのではないだろうか。