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早くきちんと本人に伝えないと、と、ボクは焦る

2012年10月14日(日) 18:56:27

丸谷才一さんがなくなった。
ボクの中では山本夏彦さんがなくなったときと同じような喪失感である。

似たような喪失感を、山口瞳さんのときも、吉田秀和さんのときも感じた。
小室直樹さんのときや黒田恭一さんのときや池田晶子さんやのときも似ていた。須賀敦子さんや向田邦子さんや立川談志家元のときも少し似てるかな(ちょっと違うんだけど)。

ちょっとキザっぽい言い方になるかもだけど、なんというか、必要以上に濃い闇を感じる夜、彼らは一隅を照らす灯りとして常に先を走っていてくれた。

遠くに常に「灯り」があり、絶えない光を発し続けてくれている、ということが、どれだけ前を向く勇気になっていたか、それは(情けないことに)なくしてみないと実感できなかったりするものだ。

縁起悪い話かもしれないが、ボクたちはいずれ松任谷由実もなくすし、桑田佳祐もなくす。

村上春樹もなくすし、よしもとばななもなくすし、内田樹もなくすし、曾野綾子もなくす。

こうして「なくしたらイヤな人」を次々と思い浮かべていたら、日曜の夕方の寂寥感が強烈に増したのでもうやめるけど(笑)、でも、とにかくボクたちは大切な「光」を必ずなくし続けていく。

彼らの存在がどれだけ前を向く勇気になっているか、早くきちんと本人に伝えないと、と、ボクは焦る。

なぜなら、意外と本人には伝わっていないからだ。

加藤和彦さんが「これまでに作ってきた音楽というものが本当に必要だったのか」「死にたいと言うより生きていたくない、消えてしまいたい」と遺書に書いて自殺したことを知って以来、「意外と伝わっていないぞ」と気を引き締めるようになった。

先を走って「絶えない光を発し続けてくれている」ということがどれだけパワーがいるすごいことなのか。

彼らはそんな自覚なく勝手に生きているのかもしれないけど、でも、伝えなくちゃ。お返ししなくちゃ。そんな想いが年々強くなる。

矢野顕子が忌野清志郎の死の直後にライブでこう言った。

「忌野清志郎の葬式に4万人とか40万人とか集まったんだって? そんなのに集まれるくらいだったら、生きてるうちに来い! 生きてるうちに清志郎のライブ見ろ。生きてる矢野顕子も見に来い!」

そのとおりだなあ。
さぼってないで伝えないと。

伝える手段のひとつとして、せめて彼らの表現物にお金を使い続けたい。

若いときは(お金があまりなかったこともあって)、「評判いい小説だから」と本を買ったし、「いいアルバムらしいから」とLPやCDを買った。で、「今度のはあまり良くないらしい」なんて買うのをやめたりした。

でも最近は、ボクがお金を使って少しでも感謝が伝わるなら、と、良かろうが悪かろうが関係なく、サポーターみたいな気分でいろいろ買っている。所有欲はもうあまりないのだけど(どっちかというと断捨離)、でも、感謝のつもりで買っている。

お金で伝わるなら安いもんだ。

あとは、なるべく本人に会いに行って、ひと言でも伝えたいと願っている。

もしそんな瞬間が来たら、きっと緊張してどもっちゃいそうだけれども。

佐藤尚之(さとなお)

佐藤尚之

佐藤尚之(さとなお)

コミュニケーション・ディレクター

(株)ツナグ代表。(株)4th代表。
復興庁復興推進参与。一般社団法人「助けあいジャパン」代表理事。
大阪芸術大学客員教授。やってみなはれ佐治敬三賞審査員。
花火師。

1961年東京生まれ。1985年(株)電通入社。コピーライター、CMプランナー、ウェブ・ディレクターを経て、コミュニケーション・デザイナーとしてキャンペーン全体を構築する仕事に従事。2011年に独立し(株)ツナグ設立。

現在は広告コミュニケーションの仕事の他に、「さとなおオープンラボ」や「さとなおリレー塾」「4th(コミュニティ)」などを主宰。講演は年100本ペース。
「スラムダンク一億冊感謝キャンペーン」でのJIAAグランプリなど受賞多数。

本名での著書に「明日の広告」(アスキー新書)、「明日のコミュニケーション」(アスキー新書)、「明日のプランニング」(講談社現代新書)。最新刊は「ファンベース」(ちくま新書)。

“さとなお”の名前で「うまひゃひゃさぬきうどん」(コスモの本、光文社文庫)、「胃袋で感じた沖縄」(コスモの本)、「沖縄やぎ地獄」(角川文庫)、「さとなおの自腹で満足」(コスモの本)、「人生ピロピロ」(角川文庫)、「沖縄上手な旅ごはん」(文藝春秋)、「極楽おいしい二泊三日」(文藝春秋)、「ジバラン」(日経BP社)などの著書がある。

東京出身。東京大森在住。横浜(保土ケ谷)、苦楽園・夙川・芦屋などにも住む。
仕事・講演・執筆などのお問い合わせは、satonao310@gmail.com まで。

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