Xperia AXが魅せるSony流「次世代スマートフォン」の形とは

Xperia AX

Sonyは8月29日にスマートフォンの新機種「Xperia V」を発表した。同モデルは、日本ではドコモから「Xperia AX SO-01E」、auから「Xperia VL SOL21」として発売される予定だ。この「Xperia AX(Xperia VL)」はこれまでのXperiaとはひと味違ったスマホに仕上がっており、Sonyが提案する「次世代スマートフォン」の形を垣間見ることができる。今回はそんなXperia AX(Xperia VL)の魅力に迫ってみたい。

Xperia AX(Xperia VL)ってどんな端末?


Xperia AXってどんな端末?

Xperia AX

Xperia VはSony Mobileが発表したスマートフォンの新端末だ。2012年10月1日に、日本向けにはXperia AX(Xperia VL[以下略])として発売されることが発表された。以降、Xperia AXの表記で統一する。

4.3インチのディスプレイは同社の最新技術である「Mobile BRAVIA Engine 2」「Sensor-on-lens」を採用し、より美しい映像に高輝度、タッチ感の向上を実現。
定評のある高性能カメラも搭載し、LTE、防水に対応する。

2012年夏モデルに多く採用されたデュアルコアプロセッサを搭載するなど、処理能力という意味では特に目立って高性能というわけではないが、Xperia AXは端末のコンセプトという意味で、これまでのXperiaとは一線を画す存在である。

これまでのXperiaと何が違うのか

Sony Ericssonでの躓き


Sony Ericssonでの躓き

今は亡きSony Ericssonロゴ

Xperiaシリーズは従来、SonyとEricssonが合弁で設立したSony Ericssonが開発を手掛けていたが、十分なシェアを獲得できておらず、客観的にみてビジネスとしてのXperiaは失敗の部類に入るだろう。

Sony EricssonはSonyが持つブランドを活かしたウォークマン携帯などを発表しヒットを飛ばしていたが、Xperiaシリーズに経営資源を集約化した頃になると、PlayStaion Suite対応など一部でSonyらしさは見られるものの、Sonyの事業全体との関連性は薄くなっていった。
それを象徴するのがSonyが2011年に発売した「Sony Tablet」だ。他の多くのメーカーがスマートフォンとタブレットで同じブランド名を冠し、統一されたブランド戦略を敷いているのに対して、SonyはなぜかXperiaという名をタブレット端末に冠することさえしなかった。

大企業ではよくあることだが「子会社とはいえ別会社」という意識が必要以上に強くなり、うまく連携が取れなくなっていたのは明らかで、ストリンガー前CEOが「サイロ」に例えたSonyの縦割り組織の弊害は、Xperiaにも影を落としていた。

「Sony」が手掛ける初めてのXperia

このような状況を打破するべく、Sonyは動いた。

2012年2月にEricssonとの合弁を解消し、Sony Ericssonを完全子会社とした。さらに社名をSony Mobileに変更。8月には本社機能をスウェーデンから東京に移管した。Sony本体の近くに本社機能を持つことで、よりスムーズに連携できるようにという意図によるものだ。

その後、Sonyはスマートフォンとタブレットの新機種を発表した。それが「Xperia AX」であり「Xperia Tablet」だ。
XperiaはもうSonyの一子会社が持っていたブランドではなくなった。
Xperia AXは実質的な意味で、Sonyが手掛ける初めてのXperiaである。

他部門との連携を強化


他部門との連携を強化

Walkman Zシリーズ

これまでにもXperia acroなど東京にて開発された機種はあったが、それはあくまでSony Ericssonの中での話だった。
今回のXperia AXではSonyとの連携が大幅に強化され、Sonyが手掛ける様々な製品・サービスとの連携が図られている。

分かりやすい成果として挙げられるのが、ウォークマンとの融合だ。
Sonyの音楽技術の粋を詰め込んだ「Clear Audio+(クリアオーディオプラス)」を採用、アプリにも「Walkman」の名を用いている。
Androidウォークマンで培った経験をXperiaに反映し、とことん音楽の質にこだわった「魂を揺さぶる音」を聞くことができるスマートフォンに仕上げたという。

Xperia AX(Xperia VL)が目指す次世代スマートフォンの形

「電話+PC」からの脱却

スマートフォンとはどんなものか説明する際によく使われるのが「電話+PC」という表現だ。電話に加えてパソコンでするようなこともできますよということだ。
モバイル端末であることを活かしたスマートフォンならではの機能もあるものの、「電話+PC」これがまずスマートフォンが目指した形だった。

Xperia AXはこの「電話+PC」という枠から脱却し、次の時代のスマートフォンを目指している。

PCもスマートフォンも基本的にはネットができて音楽も聴けてゲームを楽しめる。これらの機能はソフトウェアが主役となって実現してきた。Sonyはここから一歩進んで、ハードとソフトの融合をスマートフォンで行おうとしている。
先のウォークマンの事例であれば、「音楽を聴くためのハード」であったウォークマンとXperiaが融合することで、「音楽も再生できるスマートフォン」から「音質を追求したミュージックプレイヤーとしての顔も併せ持つスマートフォン」に進化を遂げた。

Xpeiraは、これまで「専用の家電」が担ってきた領域に踏み込んだ新しい世代のスマートフォンになろうとしている。

生活の中心にあるスマホとは


生活の中心にあるスマホとは

NFCワンタッチ接続に対応する「MDR-1RBT」

Xperia AXはNFCに対応している。NFCというと、FeliCa(おサイフケータイ)の代替技術として語られることが多いが、Xperia AXでNFCが採用されているのは単なる決済機能のためだけではない。

Xperia AXにおけるNFCの大きな役割は、他のデバイスとの連携だ。まずヘッドホンなどの周辺機器に始まり、生活家電とXperiaを繋げることを目指している。NFCを利用することでワンタッチで手軽に機器同士が繋がることが可能になる。

生活家電とPCを繋いで、PCがリビングの中心に据える「ホームネットワーク構想」というものは随分と前からあった。ここからは推測になるが、Sonyはこの構想を少し進めて、リビングに留まらない「ライフスタイルの中心」にスマートフォンを据えようとしているのではないだろうか。

なぜなら、家電と繋がるだけならBluetoothという普及した技術があり、比較的簡単に利用できる。しかし、最終的にはBluetoothで接続するデバイスの連携にも敢えてNFCを利用するのは、「NFCで繋がる」という体験を重視しているからというのは飛躍した見方だろうか。

NFCには大きな利点がある。それは、家の外にあるものであろうとも簡単に連携できる点だ。しかも、デバイスだけではなく、街中にあるポスターや映像などのコンテンツともタッチするだけでスマートフォンと連携できてしまう。NFCは日々の様々なシーンにおいて、周りのものとスマートフォンを繋げるインフラになるのだ。

そのような将来を見据えれば、ライフスタイルの中心に据えられる核として、NFC対応のスマートフォンはまさに最適の存在と言えるだろう。

Sonyの新スマートデバイス戦略

覇者Appleとは別の道を選択するSony

現在、スマートフォンやタブレットなどのスマートデバイスで最も成功しているのはAppleであるというのは衆目の一致するところだ。

Appleが成功した大きな理由は垂直型統合だと一般的には言われている。つまり、ハード(iPhone,iPad)、ソフト(iOS)、コンテンツ(iTunes,Appstore)を全てAppleが開発し管理することで、統一感があり、完成度の高いユーザー体験を提供している。

競合するAndroidは、Googleの強力な牽引によってAppleのそれに近い体験を提供することに成功し始めているが、先行者が作り出したブランド力にはまだまだ及ばないといったところだ。

Sonyはハードとコンテンツは持っているが、肝心のOSについてはGoogleに頼っているのが現状だ。このため、SonyはAppleとは別の戦略を採ろうとしている。

Sonyだけが実現できる次世代スマートデバイス戦略


Sonyだけが実現できる次世代スマートデバイス戦略

Music Unlimited

Sonyが目指すのは、自分達の強みを最大限に活かす戦略。つまり、スマートフォンを作っている大手メーカーでは唯一「総合家電メーカーでありコンテンツプロバイダーである」という「強み」をスマートデバイス開発に活かそうとしている。

その最初の取り組みが、前述の「家電化」だ。Walkmanというモバイルミュージックプレイヤー、BRAVIAというテレビ、PlayStationというゲーム機などなど、そのノウハウをスマートフォンに取り込むことができれば、他社が簡単には追従できないユーザー体験を提供できるだろう。

そして、それを活かすのが音楽、映画、ゲームなどのコンテンツだ。ゲームプラットフォームであるPlayStation Suite、音楽聴き放題の定額サービスMusic Unlimitedなど、徐々に取り組みが始まっている。グループで抱えるコンテンツは質・量ともにかなりのもので、これを戦略的に利用できる点は大きい。

Sonyがスマートデバイスを舞台として、ハードとコンテンツを武器に総力戦に持ち込めれば、次の世代の主役に躍り出るということもあるかもしれない。