「アイデアは湧いてくるけれど、うまく整理できない」とか、「せっかくアイデアが思い浮かんだのに、記録する前に忘れてしまう」といった経験、ありませんか? いつひらめくとも知れないアイデアを瞬時に捉えて管理するのは、意外と難易度が高いものです。

米フィラデルフィアのコワーキングコミュニティ「Indy Hall」の共同創設者で、世界のコワーキングムーブメントの火付け役でもあるアレックス・ヒルマン(Alex Hillman)氏は、生まれたてのアイデアを保存し、これらをより大きなものへ練り上げていくための手法として、作家スティーブン・ジョンソン(Steven Johnson)氏による「ひらめきファイル(Spark Files)」を提唱。その詳しい内容について、次のように書いています。

スティーブン・ジョンソン氏は、私が大好きな作家。最初に読んだ彼の著書は『The Invention of Air』で、最近では『Where Good Ideas Come From:The Natural History of Innovation』を読みました。また、先月、ジョンソン氏は、「The Writers Room(作家の部屋)」(英文)というシリーズを立ち上げています。

スティーブン氏によると、「ひらめきファイル」とは、まだ生煮えのアイデアを集め、再検討するために活用するプロセスでありツールのこと。彼は8年間、メモやアイデアを思いついた順に入力し、ひらめきファイルとして1つのドキュメントにまとめてきました。このひらめきファイルを1カ月に1回、最初から最後まで目を通します。古いアイデアを検証し直したり、新しいアイデアと組み合わせられたりしないか考えるのです。

実際に私も30日間、このプロセスを活用してみたところ、目覚ましい効果がありました。一番驚いたのは「同じことを記録するのに、自分がいかに頻繁な方法を行っていたのか」という点。このパターンをコンセプト追究のヒントとし、さらに調べていく価値があるとみています。また、先週一緒に仕事をしている間、同僚のトニー・バッチガルーポ(Tony Bacigalupo)氏にもこのプロセスを共有しました。彼は「これはすごいね。脳をデフラグしてるみたいだ」と、その特徴を絶妙に表現してくれました。ひらめきファイルが特に重要である理由は、バッチガルーポ氏が指摘しているように、ヒトは一度にすべてのアイデアを思い浮かべられるわけではなく、ある特定の順でこれらを思いつくわけでもないからです。おそらくもっと重要なポイントとして、ヒトはすぐにアイデアを実行したい衝動に駆られるか、まったくそうでないかの両極端になりがちだということ。そして、この衝動こそ、いい仕事をする障害になっているのです。

ひらめきファイルを活用すれば、ドキュメントの一番下にアイデアを書き記すという「アイデアの実行」によって衝動は満たされる一方、そのアイデアの行く末は定まっておらず、より大きなものへと成長する可能性を残しています。つまり、まだ生煮えのアイデアが今後よりよい解につながるかもしれないのです

1カ月に一度(もしくは、自分の好きなときに)、ひらめきファイルのメモを再検証し、パターンやヒントを探しましょう。インスピレーションを得ることもあれば、アイデアを書いた時点ではわからなかった問いの解さえ見つけることもできます。ひらめきファイルから得られるものは、アイデアを思いついた時点でそれぞれを検証する時よりも、完成度が高く、より深く、緻密だということがわかりました。このプロセスは、私が取り組んでいる「Mastering Community Building」という講義コース(英文)の教材作成に、特に役立っています。

このように、「ひらめきファイル」とは、思いついたアイデアを一カ所に集約し、定期的に見直すことで、アイデア全体を俯瞰で捉え、より大きなソリューションへと導くアプローチ。特に、課題解決や企画立案といった類いの仕事で、効果がありそうですね。

なお、スティーブン・ジョンソン氏の著書『Where Good Ideas Come From: The Natural History of Innovation(アイデアはどこからやってくるのか)』の概要は、以下のアニメーション動画でまとめられています。併せてご参考まで。

Better Answers & How I Learned to Defrag My Brain | AlexKnowsHTML

Alex Hillman(原文/訳: 松岡由希子)

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