ドイツ・ベルリンを拠点に活動している映画監督Sam Muirheadさんは、今年を「オープンソース元年」と名付けました。「1年間、可能な限り全てのものをオープンソースにしてみる」生活を送り、記録していくことを決意したそうです。なぜ彼はオープンソースにこだわるのでしょうか? そもそもオープンソースな生活とはいったい何なのでしょうか?

「オープンソース」と聞くと、多くの人は「無料で使えるソフトウェア」を連想するかと思います。ですが、オープンソースというのは、実はもっと大きなコンセプトなのです。「アイデアや開発を他社と共有し、透明性があり、協力することに焦点を置いた作業スタイルによって生まれた成果を、一般の人の生活をより豊かにするために提供する」ということを意味します。

オープンソースとは、ひとつの考え方です。最近ではオープンソースプロジェクトの範囲はれんが製造機呼気検査機水中ロボットなどのフィールドにも及びます。これらの無料で使える技術の改良が、日々繰り返されています。その範囲はソフトウェアだけに決して限定されていません。オープンソース化されている3Dプリンターの技術開発も進んでいます。

たしかにハッカーやメーカーのシーンでは、オープンソースは輝かしく、かつ避けては通れないグローバル革命とされています。とはいえ、学校やオフィス、モールや農場、映画撮影の現場などにおいては、オープンソースはまだまだなじみのないコンセプトです。

ここ数年、オープンソースという概念に着目してきたのですが、映画監督として自分が参加できる部分や、そのためのスキルはあまりないのではないかと考えてきました。ですが、図書館で働いている人であろうと、養蜂家であろうと、車の修理工であろうと、誰しもが世界をよくするために協力できることが必ず何かしらあるだろうと、ある日を境に考えるようになったのです。そう考えると、映画監督も決して例外ではなく、「オープンソースに映画監督が参加する」というのも至極自然なことのように思えました。

そこで、オープンソースという言葉をより普及させるために、一人でも多くの人たちをこの概念に巻き込んで行くために、この概念がどれほど人類を発展する可能性を秘めているのかを確かめるために、ばかげた計画を実行することを決意したのです。今年は私にとっての「オープンソース元年」なのです。

1年間、可能な限り全てのものをオープンソースにしてみる、というのが計画です。それは人生の全ての観点において、ということになります。例えば、私が履いている靴だったり、携帯電話だったり、移動手段だったり、つまりは生活に関与しているもの全てです。従来の肖像権や著作権が適応されるものは極力購入せず、オープンで透明な開発を経て来た商品を探して、まかなえるものは全て替えてみる。そうすることで、開発に関わった人たちとの関係も競合相手としてではなく、協賛者、協力者として見ることができる。そして、オープンソースという哲学が人生のあらゆるエリアにどのように関与してくるのかを調査し、うまく適応できる分野、そうでもない分野を明らかにしていく。オープンソースの電子レンジを開発している人はいるのだろうか? オープンソースの保険があったらどういったものになるだろうか? そんな疑問に対する答えを自ら導き出すべく、私はこのオープンソース元年の幕開けを迎えたのです。

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「幸運なことに、私の周りには多くのリソースやスキルのある人たちがいるので、彼らを頼りにしています」

生活の記録の全ては動画と文書で、「Sharable」および私のサイトに公開していきます。成功する事例もあれば、オープンソースによって失敗したり、ひどい目にあったりすることもあるかもしれません。テクノロジーとコラボレーション、DIYの要素を一緒くたにすることによって、オープンソースにこれまで関与してなかった人物がオープンソースによる新しい生活を試みるとどうなるのか、という実験を行ってみたいと考えています。

この生活の記録をオープンソース化し、Sharableで数週間に一度ずつ、全ての人と共有してみることにします。オープンソースの生活が果たして快適なものなのか、それともまだまだ未熟で生活の基盤にできるものではないのか、というのを身をもって証明していきたいと思っているので、見守っていただけると幸いです。

ベルリンという街は、このプロジェクトを行うには理想的な街だといえます。家賃は比較的安く、失業率が高く、ビールが水よりも安い。また、他の主要都市と比較して、週に40~50時間以上働く人が少ないこともあり、その影響で消費文化の浸食は少なめになっています。時間がある分、ベルリンの人々はクリエイティブなことを好む傾向があります。ベルリンは、クリエイティブ分野に関しては、かなりの勢いで伸びているといえるかと思います。

ベルリンは変わり続け、そして常に成長し、戦いを続け、いまだ完成形の見えてこない街です。現在は新たな生き方を模索するメーカーやハッカー、アーティストやイノベーターたちが集まるホットスポットとなっています。彼らは経験を共有し、お互いから学習し、それぞれの創造性を高め合っています。2012年のベルリンは巨大なオープンソースネットワークのハブであり、この街がまた新たなステップを踏み出す前にカメラに収めておきたいと、私は考えています。

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「この画像の中でオープンソースなものと言えば、インストールしたばかりのUbuntuくらい。
全てのモノのオープンソース化は長い長い道のりです」

このプロジェクトは8月1日から正式に開始します。まず、どのくらいの作業量があるのかを検算するために、自分が所有し、必要とし、使用している全てのものの目録を作成する、という作業を行っています。マンモスのように巨大なタスクであり、このマンモスがどのくらい毛深いのか、どのくらいの異臭を放っているのか、というのはまだ予測すらついていません。

今、自分の机を眺めているだけでも、カメラ、マイク、コンピューター、サイフ、ハードディスクドライブ、ランプ、本が数冊...オープンソースではないアイテムばかりが目に入ってきます。これらは他者が自由に調査したり、コピーしたり、改良したりすることは原則としてできないようになっています。数年かけて、これらのアイテムのオープンソースバージョンを見つけていきたいと考えています。オープンライセンスの下にリリースされた本だけを購入し、オープンソースのビデオカメラをテストし、動画やリミックスに自由に使用できる音楽のみを購入していきます。

そんな中、最も緊急を要する問題があります。オープンソース元年が開始される8月1日までに、ビールを12本しか用意していなかったということです。夏はまだまだ続くので、とりあえずビールが足りない問題を解決すべく、オープンソースビールを見つけて購入する、または自作する必要がありそうです。いずれの場合も、全ての結果を共有していきたいと思っています。

自分の人生を実験の場として捉え、チャレンジする姿勢は実に興味を惹かれるところです。ベルリンを拠点に活動している映画監督Sam Muirheadさんのオープンソースライフの様子はここからのぞいてみることができます。あなたはSam Muirheadさんの考え方をどう思いますか?

Sam Muirhead(原文/訳:まいるす・ゑびす)