2012.08.24

「公園造り」で全米2000以上の地域コミュニティを再生した非営利団体がある!

公園造りを通じて地域コミュニティの再生に取り組むカブーム!(写真:Flickr kaboomplay)

 優れたビジョンを持った組織が適切に運営されることで、地域コミュニティや非営利団体、財団、企業など、すべての関係者が大きな恩恵を得て、社会の課題を解決することができる---。

 このことを、最近発売された新刊書『カブーム! 100万人が熱狂したコミュニティ再生プロジェクト』(ダレル ハモンド著・関美和訳・英治出版)は力強く感じさせてくれます。*原題は『KaBOOM!: How One Man Built a Movement to Save Play』(2011年4月発売)

 今回はこの「カブーム!(Kaboom!)」という団体のこと、そしてこの団体がデジタル・ツールを活用することで、いかにイノベーションを大幅に規模拡大(スケール)することに成功したかを、紹介したいと思います。

 カブーム!とは、簡単に言うと、全米各地に公園を造ることで子供たちに遊び場を提供する非営利法人です。この団体名、日本人にはほとんど馴染みのない言葉ですが、もともと「Kaboom!」とは、英語の漫画で吹き出しなどに使われる「どっか~ん!」という爆発音を意味しています。

 カブーム!の公園造りの方法はきわめてユニークです。彼らのプロジェクトでは、まず地域のコミュニティが数ヵ月の時間をかけて知恵とお金を集め、資材などを準備します。そして、ある1日を「建設の日」と決めて、その日だけで一気に公園を完成させてしまうのです。「建設の日」が終わる際には、みんなが描いていた公園造りの夢が「どっか~ん!」と実現している・・・。団体名はそこに由来しています。

 アメリカの貧困地域には、近所に公園などの遊び場がない子供たちが数多く存在しています。そうしたコミュニティの問題解決の手段として、カブーム!は、地域住民や地域の非営利団体や企業を巻き込みながら、「公園を造る」というプロジェクトを15年以上も続けてきました。その結果、2100以上もの公園が建設されています。

 これは、企業からスポンサーを集めて公園を造るといった単純なアプローチではありません。6ヵ月前から資金提供パートナーとなる企業や、地域の子供たちの課題を熟知している非営利団体、コミュニティセンターなどとパートナーシップを組み、地域に密着した準備プロセスを通じて「自分のこと」として公園造りプロジェクトに参加してもらう。そこが大きな特徴になっています。

 「建設の日」の3ヵ月前には、地域の子供たちに実際に集まってもらい、どんな公園が欲しいか、実際に絵に描いてもらいながらデザインをみんなで練り上げるというプロセスもあります。1件の公園建設にかかる費用は通常約7.5万ドル(約600万円)ですが、負担費用の10%は必ず地域住民による募金活動によって捻出することに決まっています。それによって、地域メンバーの参加意識が醸成されるのです。

 カブーム!のスタッフは、全体のコーディネートを通じて企画運営をしながら、資材の手配や朝・昼の食事、必要な工具などの手配を行い、必要に応じて地域のレストラン、工具店、行政サービスなどの協力を取り付けます。

 資金を提供しているパートナー企業には、ホームセンター大手のホーム・デポ、ジェットブルー航空など、多くの大手企業が名を連ねており、「建設の日」にはそれらの会社から100人規模でボランティア社員が参加することがあります。DJを呼んで音楽をかけたりするなど、「建設の日」はその地域にとっての一大イベントとなるのです。以下の動画は1日の様子を1分の動画にまとめたものです。ご参照下さい。

 コミュニティとの連携を通じて様々なステイクホルダーを巻き込み、企業やパートナーとの連携を戦略的に行うカブーム!は現在、年間予算2000万ドル(約16億円)を超えました。過去三代のファースト・レディ(大統領夫人)もプロジェクトに参加するほど、認知と尊敬を得ている非営利団体として知られています。

カブーム!が実践している規模拡大のためのデジタル戦略とは

 カブーム!がさらにイノベーションを進め、今日、多くの注目を集めている理由が一つあります。それは、デジタル・ツールやオンライン・コミュニティを活用して「公園造り」のノウハウを公開し、そのことによってオンライン上にコミュニティを築き、規模をどんどん拡大している点です。

 背景にあったのは、カブーム!が「公園造り」の非営利団体として成長を遂げ、年間100を超える公園を建設していた2004年当時のジレンマでした。全米には何千という公園造りのニーズがあったにもかかわらず、どうやっても需要に追いつくことができない---という状況だったのです。

 そこで生まれたのが、「マス・アクション」と呼ばれる試みでした。それまでのオフラインの活動実績から得られたノウハウや知見をオンライン上にまとめ、各地域で公園造りに興味を持つあらゆる人が無料で閲覧できるようにしたのです。

 具体的には、当時カブーム!にメールや電話で寄せられていた毎年1万4000件もの技術的な質問に対し、ウェブ上で一括して公開回答したり、他の利用者からのコメントや体験談の投稿を可能にするプラットフォームを作成したり、といったことを行いました。

 内容としては、資金調達や地主との交渉、賠償責任問題への対処の仕方、コミュニティの関わりを最大化する方法、優れた遊び場のデザイン、遊具メーカーの選定方法・・・と、ありとあらゆるノウハウがオンライン上で閲覧可能になりました。

 さらに、特設サイトとして生まれた「Map of Play」には、全米の市民からクラウド上に寄せられた安全な公園の写真が、「Build Planner」には公園造りに必要な様々なノウハウ情報が掲載されました。その上、動画配信などを活用したトレーニングプログラムまで開発されたのです。

 こうしてオンラインのツールを活用することで、2009年には、カブーム!が直接関わることがない形で年間1600もの公園が全米に建設されたと言われています。その数は、カブーム!が設立以来の14年間に直接建設した数とほぼ同じでした。

 オンライン上に公開された、カブーム!秘伝の公園建設の「レシピ」は多くの人に活用され、2012年夏の時点までに「8万9000もの公園建設に寄与した」とホームページに記載されています(カブームが直接関わって建設された公園は約2100件)。

 ますます影響力が高まるソーシャルメディアを社会的課題解決の領域で活用している事例として、カブーム!の15年の軌跡には、本当に多くの教訓が盛り込まれています。

カブーム!共同設立者でCEOのダレル・ハモンド氏(筆者撮影)

 今回、前述の新刊書『カブーム!』を読み、後にカブーム!誕生のきっかけとなった、オハイオ州コロンバス市の公園建設プロジェクトに私自身が偶然参加していたことを思い起こしました。1995年のことです。そういう事情もあり、ぜひカブーム!のことを多くの方に知って頂きたく、今回取り上げてみました。

 『カブーム!』には、カブーム!の共同創業者であり、社会起業家としても著名なダレル・ハモンド氏の生い立ちや、創業の物語が余すところなく綴られています。この本を通じて、社会的な課題解決における社会イノベーションとしてのソーシャルメディアの活用が、ますます広まっていくことを願っています。

本記事に関するご意見、ご質問、フィードバック等は筆者のFacebookページまでお願いいたします。ツイッターは@socialcompanyです。

【お知らせ】
このたび、2010年から寄稿していた「ソーシャルビジネス最前線」の内容に大幅に加筆修正を施して、先日、以下の書籍を出版させて頂きました。ぜひ書店などで手に取って頂けたら幸いです。

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